太平洋十年規模振動

太平洋十年規模振動（PDO）：気候システムを揺るがす20年周期の変動

太平洋十年規模振動（Pacific Decadal Oscillation, PDO）は、北太平洋の海水温と気圧が約20年周期で変動する気候現象です。この現象は、1990年代後半に、サケの個体数変動を研究していた科学者によって発見されました。その後、気候変動との関連性が示され、気候学において重要な研究対象となっています。

PDOのメカニズム：未解明な謎

PDOの詳しいメカニズムは、現在もなお研究段階にあります。いくつかの仮説が提唱されていますが、決定的な結論は得られていません。海洋と大気の相互作用が複雑に絡み合い、長期的な変動を引き起こしていると考えられています。大気と海洋の熱交換や、海洋内部の熱輸送などの要因が、PDOの変動に影響を与えている可能性が指摘されています。

PDO指数：客観的な評価指標

PDOの状態を客観的に評価するために、PDO指数が用いられています。これは、北緯20度以北の太平洋の海水温偏差を統計的手法で処理して算出されます。この指数は正または負の値を取り、それぞれ異なる気候パターンを示します。

PDO指数の正と負の位相：異なる気候パターン

PDO指数が正の位相にある場合、北太平洋の北半分（北米大陸沿岸を除く）やポリネシア南部では海水温が低下する一方、北米大陸沿岸や太平洋赤道域中部～東部では上昇します。また、太平洋東部の気圧は低下し、アリューシャン低気圧や偏西風が強まります。

一方、PDO指数が負の位相にある場合は、これとは逆の現象が起こります。つまり、北太平洋の北半分では海水温が上昇し、北米大陸沿岸では低下する傾向にあります。

歴史的なPDO指数の推移：20～30年周期の変動

過去のPDO指数の解析から、約20～30年周期で正と負の位相が入れ替わる傾向があることが分かっています。18世紀半ばや20世紀初頭には、特に振幅の大きな変動が観測されています。また、20世紀後半以降も、数十年単位で正と負の位相が繰り返されています。

PDOと気候変動：影響と予測

PDOは、北太平洋地域の気候に大きな影響を与えています。海水温や気圧の変化は、降水量や気温、さらに海洋生物の生息数にも影響を及ぼすことが知られています。そのため、PDOの変動を予測することは、長期的な気候予測や、水産業などへの影響評価において重要です。

今後の研究：未解明な部分の解明へ

PDOのメカニズムや、気候変動への影響については、依然として未解明な部分が多く残されています。さらなる研究によって、PDOの予測精度を高め、気候変動への適応策を効果的に講じていくことが必要です。そのためには、より詳細な観測データの収集と、高度な気候モデルの開発が不可欠です。国際的な協力の下、研究が継続的に進められています。

参考文献

Mantua, N. J., et al. (1997). A Pacific interdecadal climate oscillation with impacts on salmon production. Bulletin of the American Meteorological Society.
Biondi, F., Gershunov, A., & Cayan, D. R. (2001). North Pacific decadal climate variability since 1661. Journal of Climate.
Hare, S. R., & Mantua, N. J. (2000). Empirical evidence for North Pacific regime shifts in 1977 and 1989. Progress in Oceanography.
Hare, S. R. (2004). Home Page for material relating to possible post-1977 regime shift.
Buis, A. (2008). Larger Pacific Climate Event Helps Current La Nina Linger. NASA JPL.
気象庁 太平洋十年規模振動（PDO）の海面水温変動、太平洋十年規模振動（PDO）指数の変動、太平洋十年規模振動（PDO）指数月平均値

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