太平洋核実験場

太平洋核実験場（Pacific Proving Grounds, PPG）

太平洋核実験場は、アメリカ合衆国が核兵器の開発・実験を推進するために、第二次世界大戦終結後から1960年代初頭にかけて主に運用した施設群を指します。正式名称は Pacific Proving Grounds (PPG) といいます。

冷戦体制が構築され、核兵器の開発競争が激化する中、アメリカは世界初の核実験である「トリニティ実験」（1945年、ニューメキシコ州）に続く、より大規模な核実験を行う場所を模索していました。広大で人口密度が低く、本土から十分に離れている海域が理想とされ、当時アメリカの占領下にあり、後に国際連合からの信託統治領となるマーシャル諸島が、その適地として選定されました。

マーシャル諸島での最初の核実験は、正式な実験場宣言に先立つ1946年に既に実施されています。そして1947年7月、この地域は正式に「太平洋核実験場」として指定され、本格的な核実験プログラムが開始されました。以降、1962年までの約17年間にわたり、太平洋の環礁を舞台に、数多くの核爆発実験が繰り返されることになります。

この期間、太平洋核実験場で行われた実験の最大の特徴は、その規模と種類にあります。特に1950年代には、開発が進められていた水素爆弾の実験が集中して行われ、人類史上でも前例のない、メガトン級の極めて強力な核爆発が大気圏内で実施されました。大気圏内核実験では、核分裂や核融合によって生じた大量の放射性物質が、爆発によって巻き上げられた塵や土壌と混じり合い、「放射性降下物」、いわゆる「死の灰」（フォールアウト）となって大気中に放出されます。これらの放射性物質は、偏西風などの気流に乗って広範囲に拡散し、地上に降り注ぎました。

放射性降下物は、実験が行われたマーシャル諸島の住民に深刻な被害をもたらしました。実験地の風下に位置する島々の住民は、高レベルの放射線を浴びたり、汚染された環境で生活することを余儀なくされ、様々な健康被害に苦しみました。彼らは「風下住民」と呼ばれ、故郷からの避難やその後の補償問題は、現在に至るまで解決されていない負の遺産となっています。また、放射性降下物は海にも広がり、遠洋漁業に従事する人々にも影響を及ぼしました。1954年に、ビキニ環礁での水爆実験によって日本の漁船「第五福竜丸」が被ばくし、乗組員が被ばく症状や死傷者を出した事件は、太平洋での核実験の危険性を世界に知らしめ、国際社会に大きな衝撃を与えました。

核実験による環境汚染と人道的な問題への懸念が国際的に高まる中、核実験を規制する動きが活発化しました。1963年には、大気圏内、宇宙空間、水中での核兵器実験を禁じる「部分的核実験禁止条約」が締結されるに至ります。これに先立ち、太平洋核実験場での大気圏内核実験は、1962年をもって終了しました。これ以降、アメリカ合衆国の主要な核実験は、放射性物質の拡散リスクを低減するため、ネバダ核実験場などで行われる地下核実験へと移行していきました。

太平洋核実験場での歴史は、冷戦時代の核開発競争の現実と、それがもたらした環境破壊および人道的な問題の深刻さを現代に伝えています。実験によって汚染された地域の再生は困難を極め、過去の核実験の遺産は、核兵器のない世界を目指す上での重要な教訓であり続けています。

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