太田義弘

太田義弘

太田 義弘（おおた よしひろ）氏は、1935年に生まれた日本の社会福祉学を専門とする研究者です。特にソーシャルワーク分野において顕著な業績を残し、大阪府立大学名誉教授の称号を受けています。

経歴

太田氏の学術的なキャリアは、1958年に関西学院大学文学部社会事業学科を卒業したことから始まります。その後、同大学大学院文学研究科社会学専攻で学び、1960年に修士課程を修了しました。研究者としての道を歩み始め、関西学院大学社会学部の助手を務めた後、北星学園大学文学部助教授を経て、大阪府立大学の教授に就任しました。大阪府立大学では、社会福祉学部長や大学院社会福祉学研究科長といった要職も歴任しています。長年の教育・研究活動の集大成として、1993年には「ソーシャル・ワーク実践とエコシステム」と題した研究で関西学院大学より社会学博士の学位を取得しました。

1998年に大阪府立大学を定年退官した後、同大学の名誉教授となりました。その後も研究・教育活動を続け、龍谷大学教授、関西福祉科学大学教授を歴任し、2013年に教職から退きました。これらの功績が認められ、日本社会福祉学会、日本ソーシャルワーク学会、日本社会福祉教育学会といった主要な学会の名誉会員に推挙されています。

研究活動

太田氏の研究活動の中心にあるのは、「エコシステム」という概念です。1980年代からこの概念を積極的に提唱し、それを基盤とした「エコシステム構想」と呼ばれる独自の支援ツールを介した中範囲理論を用いて、ソーシャルワークをより科学的かつ専門的な実践として確立することを目指しました。この探究は、ソーシャルワークの方法論に新たな視点をもたらすものでした。

研究をさらに深化させるため、1995年には「エコシステム研究会」を設立しました。この研究会には、研究者、実践家、そしてコンピュータ技術者といった多様な専門家が集結し、共同で研究に取り組みました。特に、エコシステム構想を具体的に活用するためのコンピュータ支援ツール、通称「エコスキャナー」の開発は、この共同研究の重要な成果の一つです。

太田氏の主な研究業績は、ソーシャルワークの機能分析に焦点が当てられており、中でもエコシステム思考に基づいたフィードバック概念の探究は特筆すべきテーマです。約半世紀に及ぶソーシャルワーク研究における氏の揺るぎない信念と具体的な成果は、2013年に『社会福祉研究』第116号に掲載された論文「私の実践・研究を振り返って：こだわりのソーシャルワーク実践研究」に詳しくまとめられています。

主な著作

太田義弘氏の単著としては、学位論文を基にした『ソーシャル・ワーク実践とエコシステム』（誠信書房、1992年）があります。この書籍は、氏の中心的な研究テーマを体系的にまとめたものです。

また、多くの共編著も手掛けており、ソーシャルワークの理論、方法、教育、支援ツールなど幅広いテーマを扱っています。主なものとして、『ソーシャル・ワーク 過程とその展開』、『ジェネラル・ソーシャルワーク 社会福祉援助技術総論』、『ソーシャルワーク実践と支援過程の展開』、『ソーシャルワークと生活支援方法のトレーニング 利用者参加へのコンピュータ支援』、『ソーシャルワーク実践と支援科学 理論・方法・支援ツール・生活支援過程』、『高度専門職業としてのソーシャルワーク 理論・構想・方法・実践の科学的統合化』などがあります。

さらに、P.レナード著『社会福祉のための社会学』（ミネルヴァ書房、1971年）の翻訳も手掛けています。

主な論文

太田氏は多数の学術論文を発表しており、その多くがソーシャルワークの実践、方法論、支援ツールに関するものです。初期にはシステム論やコンピュータ活用に関する論文を発表し、その後はエコシステム概念、フィードバック概念、ジェネラル・ソーシャルワーク、支援ツールの意義、高度専門職としてのソーシャルワークなど、研究テーマが展開していきました。これらの論文は、氏のソーシャルワーク研究の軌跡を示しています。

太田義弘氏の功績は、エコシステム構想とそれを具現化した支援ツールの開発を通じて、ソーシャルワークの実践と研究を結びつけ、その科学的な基盤を強化し、後進の研究者や実践家に大きな影響を与えた点にあります。氏の研究は、現代のソーシャルワークにおける理論と実践の統合を考える上で重要な示唆を与えています。

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