失われた時を求めて (バレエ)

プルースト『失われた時を求めて』のバレエ作品

マルセル・プルーストの長編小説『失われた時を求めて』を原作としたバレエ作品『プルースト 失われた時を求めて』は、1974年にローラン・プティにより振り付けられ、初めてマルセイユ・バレエ団によって上演されました。音楽にはプルーストが愛する7人の作曲家の作品が使用されており、このバレエは文学とダンスのユニークな融合体験を提供します。

作品の再構成

本作は、小説の筋書きをそのまま追うのではなく、いくつかのエピソードを13の独立した場面として再構成している点が特徴です。フランス語の原題『プルースト、あるいは心の間歇』が示す通り、社交生活の虚しさや恋愛の苦悩、人間の快楽への追求など、原作と共通するテーマが随所に反映されています。

原作小説のあらすじ

『失われた時を求めて』は、19世紀末から20世紀初頭のフランスを舞台に、一人称で描かれる物語です。語り手は裕福なブルジョワ家庭の一人息子であり、病弱な体を抱えつつ作家を目指しますが、社交生活や恋愛に重きを置くこととなります。その中でスワンとオデットの恋の物語や、語り手自身の初恋が展開されます。特に、語り手の恋人であるアルベルチーヌとの関係が物語の重要な軸となっていきます。

物語は、コンブレーという田舎町での語り手の思い出から始まります。ここでは、彼の家族が親戚と共に過ごす様子が描かれ、スワンの存在が語られます。スワンは、高級娼婦オデットとの恋に身も心も捧げる過程を経て、嫉妬や愛の虚しさを経験します。

バレエ作品の特徴

このバレエ作品は、2幕構成であり、第1幕は「プルースト的天国のいくつかのイメージ」、第2幕は「プルースト的地獄のいくつかのイメージ」と題され、構成が緻密に組まれています。第1幕では、スワンとオデット、そして語り手とアルベルチーヌの恋愛が主人公であり、第2幕では社交界の影と欲望が描かれることで、物語全体に重層的な深みを与えています。

振り付けは、原作に基づくものの、作品全体の流れは初心者でも理解しやすいように工夫されており、音楽も演出の一部として巧みに使われています。特に、構成された場面展開の中には、時代の変遷を音楽的に表現する技法が取り入れられており、若い頃のプルーストが敬愛した作曲家から、年を重ねた後のプルーストに響く作家の曲に至るまで、その変化が見事に音楽で表現されています。

舞台美術とテーマ

舞台美術は場面ごとに異なり、ダンスの表現に強く寄与しています。第1幕の明るい色合いと自然の風景に対して、第2幕では暗く閉塞感のある場面が展開され、テーマとしての対比が強調されています。また、各場面は独立しつつも、緩やかに繋がっており、同じモチーフが繰り返されることで、それぞれの恋愛劇の共通性が示されています。

このバレエ全体を通じ、社交生活の虚しさや人間の欲望の葛藤が見事に描かれ、観客は精神的な旅に引き込まれることでしょう。初演当初、批評の反響は芳しくなかったものの、後に評価が高まり、特に全集成版や映像化を通じ、今日でも多くの観客に感動を与え続けています。

結論

プティによる『失われた時を求めて』は、プルーストの文学作品を新たな視点で楽しまれるものとして現代に生き続けており、彼の作品の奥深さを再評価する契機ともなっています。このバレエ作品は、文学とダンスの融合によって、プルーストの描く人間の内面をより多角的に浮き彫りにしており、時代や文化を超えて共感を呼び起こす力を持っています。

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