失楽園殺人事件

失楽園殺人事件

『失楽園殺人事件』は、小栗虫太郎による短編探偵小説で、昭和9年3月に『週刊朝日』に掲載されました。この作品は、法水麟太郎シリーズの一部として位置づけられており、作者の文体と同様に、独特の衒学趣味が顔を覗かせる魅力的な物語です。

あらすじ

物語の舞台は、温泉街の湯の町Kから十丁の沖合に位置する鵯島にある天女園ハンセン病療養所です。この施設は、兼常龍陽博士が私費で設立したもので、「失楽園」と呼ばれる研究所で、兼常博士とその助手の河竹博士が不慮の死を遂げる謎めいた事件が発生します。

副院長の真積博士は、事件解決のために友人である法水麟太郎を呼び寄せます。法水は休暇中に滞在していた湯の町で真積の依頼を受け、調査に乗り出すことになります。彼は助手の杏丸医学士から、兼常博士が記した「番匠幹枝狂中手記」を手渡されます。この手記には、博士が行っていた人体実験という恐ろしい内容が記されており、事件の鍵を握る重要な情報が含まれています。

手記の末尾には「モルランド足」と、幻の本「コスター初版聖書」の名前が見え、その横にはスペードの女王のトランプカードが貼り付けられていました。この二つの要素が事件の真相に関与していることは明らかでした。

登場人物

• - 法水麟太郎: 彼は元捜査局長であり、刑事弁護士です。湯の町での休暇中に真積博士に招かれ、事件の調査を引き受けます。
• - 真積博士: 癩療養所の副院長で、友人の法水に助けを求める人物です。しかし、彼自身は失楽園に足を運んだことがないと言います。
• - 杏丸医学士: 兼常博士の助手で、研究に従事していました。真積よりも法水の協力者として、より適した人物とされ紹介されます。
• - 兼常龍陽: 事件の被害者であり、失楽園の院長。彼は死蝋の研究を行っており、倫理を無視した人体実験を実施していました。
• - 河竹医学士: もう一人の被害者で、失楽園内の自室で発見された際には、背後からナイフで刺されていました。
• - 番匠幹枝: 彼女は兼常博士によって保護され、実験の結果、発狂してしまいます。

そして、事件は多くの疑問を呼び起こします。誰が兼常博士と河竹博士を殺したのか？その動機や手法はどのようなものだったのか？また、「コスター初版聖書」とは何であり、どこに隠されているのか？

物語は、法水が推理を重ねながら事件の真相に迫る過程を描いていきます。彼が明らかにする情報は、次第に彼自身を思わぬ危険に巻き込んでいくことになるのです。

この作品は、単なるミステリーに留まらず、人間の暗い側面や倫理についても考察させられる深みのある内容となっています。また登場人物たちの複雑な関係性が、物語全体を緊迫感あるものにしている点も注目されます。

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