死蝋

死蝋（しろう）とは

死蝋は、特定の条件において築かれた永久死体の一形態であり、腐敗菌が活動しない環境で長期間外気と遮断された結果、死体は腐敗を免れます。この過程で、死亡者の体内の脂肪が変性し、最終的には蝋状またはチーズ状の外観を持つようになります。死蝋の特性は、乾燥した環境とは異なり、湿潤かつ低温の環境で形成される点です。また、死蝋が鹸化した形態も観察されることがあります。

死蝋にまつわる魔術

死蝋を用いた魔術的道具として、特に「栄光の手（ハンド・オブ・グローリー）」が有名です。この道具は、犯罪者の腕を切断し、死蝋化させたものです。儀式においては蝋燭の代わりとして使用され、また、さまざまな加護をもたらす護符としての役割も担っていました。さらに、この手を盗賊が家の前に点火すると、点火した場合は盗みが成功する、逆に燃えなければ盗みに失敗する可能性が高く、その場を離れるべきとされていました。

歴史的な死蝋の実例

数多くの著名な死蝋の例が歴史上存在します。1972年に中国の長沙馬王堆一号漢墓で発見された辛追の遺体は、その周囲の条件により死蝋化が進んでいました。彼女は約50歳で、身長は154.5センチメートル、血液型はA型でした。解剖の結果として、胃の内容物から瓜の種が確認されており、これは彼女の死亡時期が夏であることを示唆しています。

イタリア・シチリア島のカプチン・フランシスコ修道会の地下納骨堂には、ロザリア・ロンバルドと呼ばれる美しい死蝋が安置されており、世界で最も美しいミイラとして広く知られています。

1977年には、日本の著名な学者福澤諭吉の遺体が改葬のために掘り起こされた際、見事に死蝋化しているとの報告がありました。遺族の意向により、火葬が行われました。1950年にはデンマークのユトランド半島で、紀元前4世紀に生きた男性の遺体が自然に死蝋化したトーロンマンが見つかり、考古学的には湿地遺体と呼称されています。

さらに、アメリカのフィラデルフィアにあるミュター博物館では、19世紀に死亡した女性の死蝋が収蔵されています。そして東京都台東区の国立科学博物館日本館には、江戸時代に生涯を終えた女性のミイラが展示されています。これは1999年に遺跡から発見された死蝋化した遺体が、調査の過程で乾燥しミイラ化したものです。この遺体は甕に密封された状態で埋葬されており、そのため保存状態が非常に良好でした。特に、心臓や脊髄まで残されていて、日本において所見される死体の中では非常に貴重な存在です。

このように、死蝋はただの自然現象に留まらず、文化や歴史に深く関わるものとしても知られています。

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