夷酋列像

『夷酋列像』について

『夷酋列像』は、江戸時代後期の松前藩に仕え、優れた画家としても知られる蠣崎波響が制作した肖像画の連作です。この作品は、北海道東部や国後島に住むアイヌ乙名を描いており、それぞれの人物の個性や地位を反映しています。波響によって描かれたこの作品群は、アイヌ文化の貴重な記録とともに、当時の日本における民族の視覚表現を体現したものでもあります。

成立の背景

『夷酋列像』の成立は、寛政元年（1789年）のクナシリ・メナシの戦いに起因します。この戦いは、北海道のアイヌたちが和人との商取引や労働条件に対する不満から蜂起した結果、70人を超える和人が命を落としたものでした。戦いの結果、松前藩は260名の討伐隊を派遣し、その中には波響も含まれていました。この混乱の渦中で、藩に協力した43人のアイヌ乙名は、次第に藩の信頼を得ていきます。

波響は藩主・松前道広の命を受けて、特に貢献が認められた12人の肖像を描くことになります。これが『夷酋列像』の原点となります。絵画は寛政2年（1790年）11月に完成し、波響はこの作品を携えて京都へと向かい、光格天皇に献上する機会を得ました。

描かれた人物と収蔵場所

『夷酋列像』には、12名のアイヌ乙名の描写が含まれています。これらの肖像画は複数の収蔵先に保存されており、それぞれの場所で異なる価値を持っています。代表的な収蔵場所には以下があります。

• - ブザンソン美術館: 11人の肖像画が収蔵されており、松前廣長の序文が附属しています。
• - 函館市中央図書館: ションコとイコトイの肖像が保存されています。
• - 松浦史料博物館: 12人全員の肖像が揃っています。
• - 常楽寺（浜松市）: 一部の肖像が模写されています。
• - 北尾家: 12人全ての肖像画が所蔵されています。

評価と論争

波響が描いた『夷酋列像』の美術的価値については賛否が分かれています。北方史研究家の谷澤尚一らは、これらの肖像画が実際の姿を忠実に再現したものとは異なり、波響自身の想像と表現が加えられた作品であると指摘しています。特に、アイヌ人物の姿勢や構図が他の作品と似通っている点に注目されています。こういった議論は、作品の歴史的意義をより深く考察するためのものであり、文化の多様性を理解する一助となります。

結論

『夷酋列像』は、アイヌ文化を知る上で欠かせない美術作品です。波響によって描かれたこの肖像画は、当時の社会状況やアイヌの存在を象徴的に捉えています。日本の歴史における多民族共存の形を考えるうえで、重要な資料として今なお研究が続けられています。

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