松前道広

松前道広（まつまえ みちひろ）は、宝暦4年（1754年）に生まれ、江戸時代中期の松前藩を担った第八代藩主です。父は七代藩主・松前資広。幼少の頃から文武両道に秀でていた一方で、派手好きで傲慢な一面もあったと伝えられています。

明和2年（1765年）に父の死を受けて家督を相続。十代将軍・徳川家治にお目見えし、従五位下志摩守に叙任されました。しかし、道広は一橋治済や伊達家、島津家といった反幕府勢力と交流を持ち、国学者の高山彦九郎とも親交を深めるなど、幕府から警戒される存在でした。吉原の遊女を妾にするなど遊興費も多く、商人からの借金がかさみ、藩政は逼迫。幕府からの注意も度々受けていたようです。

外交面では強硬な姿勢を貫き、ロシアからの通商要請を拒否しました。寛政元年（1789年）には、国後島や目梨地方でアイヌ民族による反乱（クナシリ・メナシの戦い）が発生すると、新井田正寿や松井広次らを派遣して鎮圧に当たりました。寛政8年（1796年）には、イギリス船プロビデンス号がアプタ沖（現在の北海道虻田郡洞爺湖町）に出没した際、隠居の身でありながらも、息子の章広や家臣たちの反対を押し切って出陣したと伝えられています。

寛政4年（1792年）に隠居し、家督を長男の章広に譲りました。隠居後は大炊頭、美作守と名乗りを変えています。しかし、文化4年（1807年）には、藩主在任中の海防への取り組みや素行の悪さを理由に、幕府から謹慎（永蟄居）を命じられました。この背景には、かつての家臣による讒言があったとも言われています。文政5年（1821年）に謹慎を解かれましたが、天保3年（1832年）に江戸で79歳で亡くなりました。

道広の正室は花山院常雅の娘である敬姫（知子）。側室の平田氏との間に長男の章広をもうけました。その他、蠣崎広匡、竹子（藤倉保春室）、増子（小林義明室）など多くの子女がいます。

松前道広は、藩主として多岐にわたる活動を行いましたが、その生涯は決して平坦ではありませんでした。藩政の窮乏や幕府からの処罰など、多くの苦難を経験しながらも、激動の時代を生き抜いた人物として、その名は歴史に刻まれています。

参考文献
松前町『概説松前の歴史』
新藤透『北海道戦国史と松前氏』洋泉社、2016年2月19日　ISBN 978-4-8003-0681-4

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