奥州合戦

奥州合戦：鎌倉幕府と奥州藤原氏の激突

奥州合戦は、文治5年（1189年）7月から9月にかけて、鎌倉幕府と奥州藤原氏の間で東北地方を舞台に繰り広げられた戦争です。この戦いは、源頼朝による武家政権の確立、そして内乱時代（治承・寿永の乱）の終焉を告げる重要な出来事でした。

呼称の変遷

この戦争の呼び名は様々です。鎌倉側では古文書に「奥入」「奥入り」といった表現が見られ、「奥州追討」「奥州合戦」といった記述も存在します。鎌倉幕府の編纂した史書『吾妻鏡』では「奥州征伐」と記されていますが、「奥州合戦」とする箇所も見られます。

明治時代以降の歴史学では『吾妻鏡』を重視し「奥州征伐」が定着していました。しかし、1978年、入間田宣夫氏によって、鎌倉幕府側の視点からの命名を問題視する意見が提示され、「奥州合戦」という、どちらの勢力にも偏らない呼称が提唱されました。現在では、「奥州合戦」が広く用いられています。

背景：揺らぐ奥州藤原氏の支配と源義経の潜伏

奥州藤原氏は、後三年の役後、100年にわたり陸奥・出羽両国を支配しました。三代秀衡の時代には、陸奥守・鎮守府将軍の地位を得るなど、名実ともに奥州を支配する勢力となっていました。

平氏を滅ぼした源頼朝にとって、奥州藤原氏は潜在的な脅威でした。頼朝は、藤原氏の京都朝廷への貢納を鎌倉経由で行わせるなど、支配力を強めていきます。しかし、文治4年（1188年）、頼朝と対立していた源義経が平泉に潜伏していることが発覚します。秀衡は既に亡くなっていましたが、その子息たちは義経を匿い、頼朝への抵抗を計画していたと伝えられています。

頼朝は朝廷に働きかけ、藤原氏への義経追討の宣旨を下させようとします。藤原氏側はこれを拒否し、頼朝の怒りは頂点に達します。朝廷と幕府の思惑が交錯する中、文治5年に入ると、頼朝はついに泰衡追討の宣旨発給を朝廷に要請します。

源義経の最期

文治5年閏4月30日、鎌倉の圧力に屈した泰衡は、平泉衣川館で義経を襲撃し、自害に追い込みます。義経の首を鎌倉に送った泰衡でしたが、頼朝の目的は奥州藤原氏の滅亡でした。義経を匿った罪を問われ、泰衡追討の宣旨が発給されます。

鎌倉幕府軍の進撃

頼朝は、大手軍、東海道軍、北陸道軍の三軍に分かれて奥州へ侵攻します。頼朝自身も大手軍を率いて出陣し、各地の豪族を従えて奥州南部へと進軍します。奥州側は国衡が阿津賀志山に布陣し抵抗を試みますが、鎌倉軍の猛攻の前に敗北します。阿津賀志山の戦い、石那坂の戦いなど、各地で激戦が繰り広げられました。

平泉陥落

鎌倉軍は、多賀城、平泉と次々と奥州藤原氏の拠点を攻略していきます。平泉は既に放棄された状態でしたが、頼朝は平泉に入城します。

奥州藤原氏の滅亡とその後

泰衡は奥地に逃亡しますが、比内郡で殺害されます。その首は頼朝のもとに届けられました。奥州藤原氏は滅亡し、頼朝の支配が確立します。しかし、鎌倉の支配に対する反感は残っており、泰衡の家臣による反乱なども発生しました。これらの反乱も鎮圧され、約10年にわたる争乱に終止符が打たれました。

奥州合戦の意義

奥州合戦は、源頼朝による全国的な兵力動員が行われた、重要な出来事でした。頼朝は、この合戦を通じて、自身に従う「御家人」の確立を図り、武家政権の基盤を固めたと言われています。

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