女が見ていた (小説)

小説『女が見ていた』の概要

横溝正史の『女が見ていた』は、1949年に発表された長編推理小説で、当初は『女が見てゐた』という題名で連載されました。この作品は、連載が行われた『時事新報』において異例の長編作品として位置付けられており、同年の第3回探偵作家クラブ賞の候補にも選出されています。

作風と背景

本作に先立ち、横溝は身近に見られる人物や日常生活で発生する事件に着目し、それに大きな謎を織り込むことを目指しました。また、アメリカの作家コーネル・ウールリッチがウィリアム・アイリッシュ名義で発表した『幻の女』に感銘を受け、そのスリルとサスペンスを引き合いに出し、自らの作品に新しい画風を取り入れることを意図しました。

『女が見ていた』では、無実を証明してくれる女性たちが次々と殺される情景が描かれ、これがウールリッチの影響を示しています。一方で、名探偵と呼ばれる人物は登場せず、作品全体に加わる緊張感と不安定さは、戦後の混乱した社会を反映しています。

あらすじ

物語は、5月の寒い晩、風間啓介という小説家が妻の加奈子を殴った後、銀座をさまよい歩くところから始まります。彼は途中で、ラクダ色のオーヴァを着た女性や黒い外套の女性、真紅のターバンを被った女性に尾行されている感覚を覚えます。この夜、啓介は酔っぱらい、旧友の妻である泰子に連絡を試みますが、思いも寄らぬ振られ方をし、ますます酔いが深まります。

次の日、疲れ果てた啓介が帰宅すると、同居人の西沢から加奈子が銀座のキャバレー・レッド・ミルで殺されたことを告げられます。驚愕する啓介は、何者かが自分を罠にはめようとしていると考えます。彼は西沢に睡眠薬を飲ませ、逃げ出そうとしますが、その後の展開によって、彼の身の回りでは失踪した女性たちの運命が暗い影を落としていきます。

加奈子の葬式では、西沢が若い女性から受け取った謎めいた便箋が大きな伏線となります。その便箋には「奥さまを殺したのは、旦那様ではありません」と記されていましたが、西沢はこれを警部に渡さず、自らの思惑に利用しようとします。つまり、彼は啓介が無実である証拠を抑え込むことで、自分の意図を果たそうとしていたのです。

啓介の無実を証明できる三人の女性を探すため、彼は昔の知り合いであるヤミブローカーの田代に協力を求めます。物語が進むにつれて、田代は手がかりをつかむものの、状況はさらに複雑に絡み合い、残された女性たちにも命の危機が訪れることになります。

登場人物

本作には風間啓介、その妻加奈子、同居人の西沢をはじめ、多様なキャラクターが登場します。啓介は小説家という職業から、自らの感情との葛藤を抱えた人物として描かれ、妻の加奈子は彼に何らかの影響を与える重要な役割を果たす人物です。西沢は啓介に対する反感から物語を複雑にし、彼自身の思惑を持つ重要なキャラクターとなります。

このように『女が見ていた』は、戦後の混乱した時代を背景に、人間関係や感情の葛藤を通じて緊迫したストーリーを展開します。著者が描く日常生活の中でのサスペンスは、読者に深い考察を促すものであり、推理小説の新たな地平を切り開く一作として位置づけられています。

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