女と男 (テレビドラマ)

「女と男」作品解説

1987年10月26日、フジテレビ系列の「女優競演サスペンス」枠で単発ドラマとして放送された『女と男』は、映画監督として知られる横山博人がメガホンを取った異色のテレビ作品である。人間の内面に潜む闇や、社会の枠組みから外れた場所に生きる者たちの孤独を描き出すことに定評のある横山監督の手腕が光る一本と言える。

物語は、風俗業で日々の糧を得る主人公の女性（樋口可南子）が、電話口の精神科医（陣内孝則が声で出演）と対話する場面から始まる。この精神科医は印象的な九州弁を使い、主人公の語りを聞き出す狂言回しのような役割を担う。彼女の口から語られるのは、かつて高校で同級生だった「男」（四谷シモン）が、職を辞して自分のマンションに転がり込んでくることになった経緯だ。

高校時代、二人の間に特別な交流はなかった。しかし、ある同窓会での出来事が彼らの関係性を大きく変えることになる。その席で、主人公の女性が自らの職業を正直に告白した際、周囲に流れた偽善的な空気に抗議するかのように、「男」は突如として席を立ち、女装して会場に戻ってきたのだ。この強烈な出来事を境に、社会の常識や期待から距離を置く二人だけの奇妙な交流が始まる。

風俗嬢として生きる女性と、教師という立場を捨て、ゲイであることを隠さない「男」。それぞれが社会の周縁で孤独を抱えながら生きる者同士として、言葉を交わし、奇妙な共同生活を送るうちに、彼らの間には、淡い恋情とも、あるいは深い共感ともつかない、いびつながらもどこか惹かれ合うような感情が芽生え始めたかに見えた。互いの傷つきやすさを理解し、支え合うような瞬間もあったのかもしれない。それは、彼らにとって、社会という大きな枠組みの中では決して得られなかった、束の間の安らぎであった可能性もある。

しかし、そんな危うい均衡は長くは続かない。男のゲイとしての恋人（原田芳雄）が、彼を追って女性のマンションに姿を現したのだ。男は女性の部屋を出て、廊下で恋人との対話に応じる。その時、部屋に残された女性は、閉ざされたドア越しに聞こえてくる二人の残酷なやり取りを、皮肉なことに全て聞き取ってしまうことになる。

「あの女が好きになったのか？」という恋人の問いに対し、「男」は「いやだよ、あんな汚い女」と、彼が最も寄り添っていると思っていた女性を侮蔑する言葉を投げかける。この一言は、女性にとって、そして彼らの間に築かれつつあった希薄な繋がりにとって、決定的な破局を告げるものだった。社会からの疎外感の中で見出しかけた、わずかな繋がりが、内側からの刃によって断ち切られた瞬間である。

男が去った後、女性は再び電話を手に取り、精神科医との会話を続ける。一見、何事もなかったかのように彼女の日常が戻ってきたかに見える。風俗嬢としての生活が続き、電話越しの対話相手は変わらない。しかし、その手元では、会話を続けながら服用する薬の量が、以前とは比べ物にならないほど大量に増えているのだ。この静かで、しかし強烈な描写は、男の裏切りによって彼女の内面が決定的に傷つき、崩壊寸前であることを示唆している。

『女と男』は、社会の規範に適合できない者たちが抱える孤独、互いに寄り添おうとしながらも結局は分かり合えない人間の浅はかさ、そして偽善的な社会への反抗とその末路を、抑制されたタッチの中に残酷なリアリズムを込めて描いた作品と言えるだろう。主演の樋口可南子と四谷シモンの、どこか現実離れしたような存在感が、物語の持つシュールかつ悲劇的な雰囲気を際立たせている。脚本は富川元文、音楽は青山八郎が手掛け、西村由紀江の「SCREEN」がテーマ音楽として作品世界を彩っている。制作は松竹と関西テレビが担当した。社会の「普通」から零れ落ちた魂たちの、救いのないドラマとして、見る者に強い印象を残す一作である。

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