四谷シモン

四谷シモン：人形と演劇に生きた異才

四谷シモン（1944年7月12日生まれ）は、人形作家、俳優として知られる日本のアーティストです。本名は小林兼光。人形学校「エコール・ド・シモン」の主宰者でもあります。写真家の渡辺兼人を弟に持ちます。

人形制作への目覚めと初期の活動

東京都出身の四谷シモンは、幼少の頃から人形制作に興味を持ち、川崎プッペに影響を受けました。中学卒業後はアルバイトをしながら人形制作を続け、林俊郎、坂内俊美に師事。17歳の時にはぬいぐるみ人形作家、水上雄次の内弟子となりました。新宿のジャズ喫茶に出入りする中で、金子國義やコシノジュンコらと交流を深め、歌手ニーナ・シモンから取った「シモン」という渾名で呼ばれるようになり、ロカビリー歌手としても活動しました。

澁澤龍彦との出会いと人形制作の転換

1965年、雑誌『新婦人』に掲載された澁澤龍彦によるハンス・ベルメールの球体関節人形の紹介記事に衝撃を受け、それまでの人形制作方法を大きく転換します。1967年には金子國義を通じて澁澤龍彦、唐十郎と知り合い、同年5月には唐十郎の状況劇場の芝居に出演。渋谷東急本店の開店キャンペーンでディスプレイ用人形を制作し、「前衛マネキン」として注目を集めました。この制作過程で張り子人形の技法とメイクの方法を学びます。

状況劇場での活動と「四谷シモン」の誕生

1968年3月から6月にかけて、状況劇場の紅テントの芝居に出演した際、「四谷シモン」の芸名を使い始めました。1971年まで状況劇場の役者として活動し、新宿西口中央公園事件や寺山修司の天井桟敷との乱闘事件にも関わりました。麿赤児は当時の四谷シモンを「民衆を扇動するジャンヌ・ダルクのように光って見えた」と回想しています。

人形作家としての確立

1972年、新宿の紀伊國屋画廊で「10人の写真家による被写体四谷シモン展」が開かれ、人形「ドイツの少年」が展示されました。この作品が人形作家として本格的に活動する転換点となります。1973年には銀座の青木画廊で初の個展を開催し、澁澤龍彦がタイトルを「未来と過去のイヴ」と命名しました。1975年には「慎み深さのない人形」を発表しています。

エコール・ド・シモンの開校と人形制作の深化

1978年、人形学校「エコール・ド・シモン」を開校。当初は既製のパーツを使った人形作りを教えていましたが、後に自由創作へと方針を転換しました。1981年からは紀伊国屋画廊で「エコール・ド・シモン展」をほぼ毎年開催しています。

四谷シモンは、「少女の人形」「少年の人形」「機械仕掛けの少年」「解剖学の少年」など、数多くの作品を発表。1984年には再び状況劇場の芝居に出演し、1985年にはNHK大河ドラマ「春の波涛」にレギュラー出演するなど、俳優としても活動しました。

澁澤龍彦の死と天使シリーズ

1987年に精神的な支柱であった澁澤龍彦が死去すると、しばらくの間、茫然自失の状態に陥りましたが、1988年より「天使－澁澤龍彦に捧ぐ」シリーズを制作し、創作活動を再開しました。

その後の活動と評価

2000年から2001年にかけて、全国5カ所の美術館で大規模な個展を開催。2003年には人形作品「男」が、押井守監督のアニメ映画『イノセンス』のキャラクターのモデルとなりました。2004年にはパリ市立アル・サン・ピエール美術館の「人形　POUPEES」展に作品を出展し、展覧会全体のポスターに「少女の人形」が採用されました。また、東京都現代美術館の「球体関節人形展」にも出展しています。

2010年にはベルメールの生誕地であるポーランドのカトヴィツェで球体関節人形を展示。2014年にはそごう美術館、西宮市大谷記念美術館で個展を開催。2016年にはロンドンのテート・モダンで、細江英公が撮影した四谷シモンの写真が展示されました。2004年からは主要作品が香川県の四谷シモン人形館で常設展示されています。

四谷シモンの作品は、シュルレアリスムの影響を受けつつも、独自の美意識と哲学が込められています。人形制作だけでなく、演劇や映画への出演、著作活動など、多岐にわたる分野で才能を発揮し、日本の現代アートシーンに大きな足跡を残しています。

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