女の男

1917年、アメリカで生まれた忘れられたコメディ：映画『女の男』

ジョセフ・カウフマン監督による1917年のアメリカ映画『女の男』(原題:The Amazons)は、現在では失われた映画として知られています。サイレント映画という時代背景、そしてコメディというジャンルが織りなす、軽妙洒脱でありながら、どこか物悲しい魅力を秘めた作品です。

本作の基盤となっているのは、1883年にサー・アーサー・ウィング・ピネロによって書かれた同名戯曲。フランシス・マリオンによる映画化脚本は、原作の面白さを巧みに映像へと変換し、当時の観客を魅了したに違いありません。製作と配給は、当時ハリウッドで勢力を伸ばしていたフェイマス・プレイヤーズ＝ラスキーが担い、パラマウント映画が配給協力を行いました。ハリウッド黄金時代の黎明期を彩った、重要な作品の一つと言えるでしょう。

物語は、男子のいないキャッスルヨルダン侯爵夫人が、3人の娘たちを男として育て上げたというユニークな設定から始まります。侯爵夫人の策略、あるいは当時の社会状況が作り出した、奇妙で魅力的な状況です。特に、末娘トミーの奔放な行動は、本作におけるコメディの重要な要素となっています。

ロンドンに出向いたトミーは、男装して酒場へと足を踏み入れます。そこで巻き起こるトラブルは、まさにハプニングの連続。しかし、そんな彼女を救うのは、従兄で飛行機乗りであるリッタリー卿です。当時としては斬新な乗り物である飛行機の登場は、観客に驚きと興奮を与えたことでしょう。

一方、母と姉たちは華やかな舞踏会で、トウィーンウエイス伯爵とド・グリヴァル伯爵といった、当時の上流階級を象徴するような人物たちと出会います。異なる世界を生きる女性たちの、それぞれのドラマが描かれる様子は、現代の視点からも興味深く鑑賞できる部分です。

その後、馬に乗った娘たちは、遠乗りに出かけます。しかし、トミーの馬が暴走するというアクシデントが発生。再び、リッタリー卿がトミーを救出します。この出来事をきっかけに、トミーはリッタリー卿に恋心を抱くようになります。

映画には、マーゲリット・クラーク、エルシー・ローソン、ヘレン・グリーンといった、当時を代表する女優たちが華を添えています。彼女たちが演じる、男装した女性たちの姿は、現代の観客にとっても、新鮮な驚きを与えてくれるでしょう。また、ウィリアム・ヒンクリー、ヘレン・ロビンソン、エドガー・ノートン、アンドレ・ベロンといった俳優陣も、それぞれ個性的なキャラクターを演じきっています。彼らが作り上げた世界観は、サイレント映画特有の表現方法によって、さらに強調されています。

残念ながら、『女の男』は現在、現存しないと考えられています。しかし、残された情報や、類似作品から、この映画が持つ魅力を想像することは可能です。時代背景や社会状況、そして映画製作の技術革新など、様々な要素が複雑に絡み合い、忘れられた傑作を生み出したと言えるでしょう。もし、この映画が現代によみがえることがあれば、多くの人々に感動と驚きを与えることでしょう。この映画の消失は、映画史における一つの損失として、永遠に記憶にとどまることでしょう。

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