女殺油地獄

『女殺油地獄』

『女殺油地獄』は、近松門左衛門作の人形浄瑠璃であり、享保6年（1721年）に初めて上演された世話物です。この作品は、実際の事件を題材にしているとされていますが、その詳細は明らかにされていません。近松の人気作品の一つであり、歌舞伎でも何度か上演されましたが、当初の評判は良好ではなく、一時的に上演が途絶えました。

明治時代に入り、坪内逍遙による「近松研究会」で再評価され、1909年には歌舞伎で再演されました。以降、文楽でも回復を遂げ、1952年には再び観客の前に登場しました。その後、この物語は映画やテレビドラマとしても数多く映像化され、観客に知られる存在となりました。なお、多くの地方では「おんなごろし あぶらのじごく」と発音されることが一般的です。

ストーリー概要

物語は、大坂天満にある油屋、河内屋の番頭である徳兵衛を中心に展開します。徳兵衛の義理の息子である与兵衛は、放蕩に耽るあまり、店の資金を持ち出して遊女に入れあげるようになります。徳兵衛とその妻お沢は、与兵衛に懲りさせるために勘当しますが、心のうちでは彼が不幸にならないようにと、同じ町の豊島屋の女房お吉を通じて密かに金を贈っていました。

しかし、与兵衛はそれでも遊びの資金に困り果て、金貸しの綿屋小兵衛から義父の名で金を借ります。返済の見込みがない与兵衛は、日限が迫る中で、豊島屋のお吉に援助を求めるも拒絶され、絶望した末にお吉を惨殺し、店の資金を奪い取ってしまいます。

与兵衛は何食わぬ顔で、お吉の供養に参加しますが、その際に殺人の証拠が残されてしまい、最終的には逮捕される運命に遭います。

登場人物

• - 河内屋与兵衛: 物語の主人公であり、大阪の油屋の次男。放蕩の限りを尽くし、悲劇を招く。
• - 豊島屋お吉: 与兵衛の犠牲者で、美しい性格を持ちながらも不幸な運命に翻弄される。
• - 河内屋徳兵衛: 与兵衛の義父で、彼を甘やかしたために息子が悪道に足を踏み入れる。
• - 河内屋太兵衛: 与兵衛の兄で、暴走する弟を心配している。
• - 河内屋お沢: 与兵衛の母親。彼を心の底から愛し、何度も助けようと奮闘する。

演出と映像化

お吉を殺す場面では、油がまき散らされる状況がリアルに描かれるため、歌舞伎ではフノリを用いてその状況を表現します。文楽では人形の動きでこの場面を効果的に演出しています。

歌舞伎や文楽の他にも、映画化や最近ではテレビドラマとしても何度か制作されました。特に、2009年に公開された映画ではストーリーや設定が大幅に変更されるなど、現代の視点を取り入れた映像作品が話題となりました。

この作品は、人間の欲や男の放蕩が引き起こす悲劇を描写し、涙無しには見られない内容となっています。観客はこの悲劇を通じて、道徳的な教訓や人間関係の複雑さを考えさせられることでしょう。名作『女殺油地獄』は、時代を超えた魅力を持っており、今後も新たな形で伝えられていくことでしょう。

もう一度検索