娼婦たちの晩餐〜ライヴ

トム・ウェイツの3作目にあたるアルバム『娼婦たちの晩餐〜ライヴ（Nighthawks at the Diner）』は、1975年に発表されました。このアルバムは、彼の独特な音楽性とパフォーマンスが際立つ作品として知られています。

通常とは異なる制作背景も特徴的です。全曲とも当時未発表の新曲（一部はデビュー前にデモ・テープが存在）で構成され、レコーディング・スタジオで録音されました。しかし、内容は観客を前にしたライブ演奏という、変則的な形式が採用されています。

プロデューサーのボーンズ・ハウは、トム・ウェイツのステージ・パフォーマンスを高く評価していました。そこで、彼のステージの雰囲気をそのままアルバムに収録するというアイデアが生まれ、レコーディング・プラント・スタジオをナイトクラブのような内装に変えるという試みが行われました。観客は、マネージャーのハーブ・コーエンが友人たちを集めて用意されました。この「スタジオ内でのライヴ」は2晩にわたって行われ、その音源がレコード化され発売されました。アナログ盤では2枚組でしたが、CD版では1枚にまとめられています。

楽曲の合間に挿入されている「イントロ」と題された部分も、単なる繋ぎではなく、演奏やポエトリー・リーディングが行われています。例えば、「ベター・オフ・ウィズアウト・ア・ワイフ」（「妻はいない方がいい」という意味）の演奏前には、ピアノで結婚行進曲が演奏されるという、皮肉めいた演出も施されています。

トム・ウェイツは、本作の制作にあたり、ジャック・ケルアックとスティーヴ・アレンが1957年に発表したアルバム『ケルアック/アレン』を参考にしたと語っています。「演奏をバックにしゃべっているような曲をやろうと思った」という彼の言葉からは、従来の音楽の枠にとらわれない、自由な表現への志向が伺えます。

収録曲の中には、カントリー歌手のレッド・ソヴァインが1967年にヒットさせた「ビッグ・ジョーとファントム309」のカヴァーも含まれています。また、「スペア・パーツ」は、後に歌手デビューを果たすことになるトム・ウェイツの友人、チャック・E・ワイスとの共作です。

収録曲

1. (Opening Intro)
2. Emotional Weather Report
3. (Intro)
4. 霧の夜に - On a Foggy Night
5. (Intro)
6. タマゴとソーセージ - Eggs and Sausage (In a Cadillac with Susan Michelson)
7. (Intro)
8. ベター・オフ・ウィズアウト・ア・ワイフ - Better Off Without a Wife
9. 娼婦からのハガキ - Nighthawk Postcards (From Easy Street)
10. (Intro)
11. ビールと女 - Warm Beer and Cold Women
12. (Intro)
13. パットナム・カウンティ - Putnam County
14. スペア・パーツ I - Spare Parts I (A Nocturnal Emission) (Tom Waits, Chuck E. Weiss)
15. ノーバディ - Nobody
16. (Intro) to "Big Joe and Phantom 309"
17. ビッグ・ジョーとファントム309 - Big Joe and Phantom 309 (Tommy Faile)
18. スペア・パーツ II・アンド・クロージング - Spare Parts II and Closing (T. Waits, C. Weiss)

参加ミュージシャン

トム・ウェイツ - ボーカル、ピアノ、ギター
マイク・メルヴォイン - ピアノ、エレクトリック[[ピアノ]]
ピート・クリストリーブ - テナー・サックス
ジム・ヒューアート - ベース
* ビル・グッドウィン - ドラムス

『娼婦たちの晩餐〜ライヴ』は、トム・ウェイツの音楽的な実験精神と、独自のユーモアセンスが融合した、唯一無二の作品と言えるでしょう。

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