婿投げ・墨塗り

婿投げ・墨塗り（むこなげ・すみぬり）

新潟県十日町市松之山地域に古くから伝わる小正月行事、「婿投げ・墨塗り」は、「越後の奇祭」とも称され、そのユニークな内容から多くの注目を集めています。

この行事における「婿」とは、地区内で生まれた女性と前年に結婚した新郎を指します。つまり、地域外から新婦を迎えた男性や、地域内に婿入りした男性ではありません。結婚した夫婦は、翌年の小正月に松之山へ帰省し、この伝統的な行事に参加します。

行事は主に二部構成で、まず「婿投げ」が行われます。主な舞台となるのは松之山温泉街です。新郎は地元の人々に先導され、薬師堂へと向かいます。堂内では祝福を込めた胴上げが行われた後、いよいよハイライトの婿投げです。薬師堂に隣接する、高さおよそ5メートルの崖から、新郎は皆の手によって豪快に投げ落とされます。松之山は全国有数の豪雪地帯であるため、地面に積もった厚い雪がクッションとなり、安全が確保されます。ただし、積雪が少ない年には、安全のために雪を積み上げる準備が必要となることもあります。近年は和装姿で参加する新郎が多く見られます。

婿投げの起源は、かつて娘が他の集落へ嫁いだことへの名残として、その婿を投げた風習が始まりとされています。それが時代を経て、新婚男性が地域の一員として認められるための通過儀礼へと変化したと言われています。江戸時代に別の集落で発祥したと伝えられていますが、現在は観光イベントとしても松之山温泉で実施されています。

婿投げが終わると、「墨塗り」へと続きます。これは、正月飾りなどを集めて作られた「賽の神（さいのかみ）」と呼ばれる塔に火を放ち、それを燃やし尽くすことから始まります。この火は、他の地域で行われる左義長やとんど焼きなどと同様、一年の無病息災を願うものです。炎が鎮まった後、参加者は燃え残りの墨を取り、「おめでとう」と声を掛け合いながら、お互いの顔にその墨を塗り付け合います。墨を塗ることで、厄払いや健康祈願の意味が込められているとされています。

ただし、この墨塗りの風習は、顔に墨を塗られることを敬遠する向きもあるためか、松之山地域の中でも松之山温泉の湯本地区（松之山温泉の中心地）の1箇所でのみ行われています。墨塗りは、婿投げよりも古い歴史を持つ行事であると伝えられています。

本来、婿投げと墨塗りは起源が異なる行事とされていますが、現在は同日、同場所で、ほぼ同じ参加者によって連続して行われるため、一体の行事として認識されています。近年は、地元関係者の参加者が減少傾向にあり、村外からの一般参加者を公募することで、このユニークな伝統が受け継がれています。

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