松之山温泉

新潟県十日町市の山間深く、国内有数の豪雪地帯に位置する松之山温泉は、古くから優れた薬効で知られる名湯です。兵庫県の有馬温泉、群馬県の草津温泉と共に「日本三大薬湯」の一つに数えられ、日本経済新聞の「日本百名湯」にも選ばれています。

最大の特徴は、約1000万年前に地下に閉じ込められた化石海水が湧き出す「ジオプレッシャー型温泉」と考えられている、特異な泉質にある。泉質はナトリウム・カルシウム-塩化物泉（弱アルカリ性）で、特にホウ酸含有量は1Lあたり349.5mgと日本一を誇ります。美肌効果で知られるメタケイ酸も豊富。山間地ながら高い塩分濃度を持つのはこの化石海水由来で、かつて塩の採取も行われた歴史を持ちます。源泉温度は98℃と高温で、毎分100L以上の豊富な湯量が湧出。2011年の地震で一時減少しましたが、新規掘削で安定供給されています。

温泉街は、湯治場としての面影を残す十数軒の旅館を中心に、飲食店、共同浴場「鷹ノ湯」、足湯などが並ぶ小規模ながら趣ある佇まいです。百年以上の歴史を持つ老舗や、国の登録有形文化財となっている建築物も見られます。観光案内やカフェを備えた「里山ビジターセンター」も中心部にあります。温泉街周辺には、小正月の奇祭「婿投げ・墨塗り」が行われる薬師堂や、景勝地である不動滝があり、散策に良い。日帰り温泉施設「ナステビュウ湯の山」も利用可能です。

開湯は、約700年前の南北朝時代、傷を癒す鷹の姿から発見されたという伝説に由来し、共同浴場「鷹ノ湯」の名もこれにちなみます。上杉謙信の隠し湯との伝承も。文献では1503年の古文書に湯治の記録があり、古くから名湯として知られていたことがうかがえます。江戸時代の温泉番付においても、越後国の代表的な温泉として高く評価されていました。

豊富な温泉資源は、エネルギー活用も進んでいます。2010年度からの高温温泉熱を利用したバイナリー発電実証実験や、温泉熱を利用した消雪パイプ整備などが行われ、一連の取り組みは2017年にグッドデザイン賞を受賞しました。2019年に設立された新会社による発電事業は、2020年に出力210kW、年間約124万kWhを発電する施設を完成させ、地域資源活用の先進事例となっています。

アクセスは以下の通りです。
公共交通：北越急行ほくほく線まつだい駅より東頸バス約25分。十日町駅、越後湯沢駅からのバスも利用可。タクシーはまつだい駅などより約25分。
車：関越自動車道塩沢石打ICより約50分。各主要駅からも1時間前後。

周辺地域は里山の自然豊かで、「美人林」と呼ばれるブナ林や美しい棚田など、日本の原風景が広がります。「大地の芸術祭」の舞台でもあり、集落内に様々なアート作品が点在しています。冬は松之山温泉スキー場も楽しめます。

文学作品では、坂口安吾の小説「黒谷村」の舞台として描かれたことでも知られています。

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