嫁威谷

嫁威谷の伝説

嫁威谷（よめおどしだに）は、越前国吉崎御坊、現在の福井県あわら市吉崎付近に位置する伝説です。この物語は、主に「肉付きの面」として知られ、蓮如上人にまつわる教えを通じて、人々の心に深く留まっています。伝説は研究者の膽吹覚によって5つの物語が伝承されていることが指摘されており、その中でも『蓮如上人御一代記聞書』に基づいています。

あらすじ

物語は文明3年、1471年に始まります。この年、蓮如上人が北国を巡り教えを広めるため、越前国の吉崎道場で朝夕に物語を語ると、多くの信者がこの教えを聴くために集まりました。彼らの中には、越前国二袴の百姓である与惣治とその嫁がいました。二人は蓮如上人の高徳を敬い、彼の教えを受けることで往生を果たそうと、度々吉崎に通い詰めていました。

しかし、与惣治の母は、息子夫妻の吉崎通いを心配し、家業が損なわれるのではないかと邪推していました。彼女は邪心から、嫁を脅かすために、自らの氏神を模した面を装い、藪に隠れて待ち構えました。文明4年の2月20日、嫁が吉崎から帰る途中、母は鬼の姿で現れ、嫁を脅すことに成功します。

母は、「お前は私の言うことに背き、吉崎に通う不孝をするなら許さない」と告げました。脅かされた嫁は、恐怖から家に逃げ帰りました。帰宅後、彼女は夫にこの出来事を話し、さらに母の様子を心配して再び藪に向かいます。そこで彼女は、鬼の姿をした母が恥を晒して泣き叫ぶ姿を目にしました。

与惣治は母を励まし、悔い改めて吉崎御坊に行くことを勧めました。母はその言葉に従い、蓮如上人のもとを訪ね、懺悔し教えを受けました。すると、彼女の顔に張り付いていた鬼女の面は自然に外れました。これが伝承された「肉付きの面」であり、今も西念寺に保存されていると言います。

戯曲と後世への影響

この伝説は、1726年には浄瑠璃『北条時頼記』に取り入れられ、1799年には歌舞伎にアレンジされた『雪国嫁威谷』として上演されました。江戸時代の演劇では、物語の内容により深みを持たせ、観客に強い印象を与えました。また、著名な上方狂言では、母親が般若の面を被って悲劇的な事件を引き起こす内容に脚色されています。これは、嫁威谷の伝承が単なる伝説に止まらず、文化や芸術に与えた影響を示しています。

これらの物語は、信仰と悔い改めの重要性、そして親子の絆の深さについての教訓を含んでおり、現代においても読み継がれています。嫁威谷の伝説は、その独特なストーリーと蓮如上人の教えが織りなす深いメッセージによって、多くの人々の心を掴み続けているのです。

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