孔舎衛坂駅

孔舎衛坂駅：神武天皇伝説と消えた駅舎

孔舎衛坂駅は、かつて大阪府枚岡市日下町（現在の東大阪市）に存在した、近畿日本鉄道奈良線の駅です。1964年、新生駒トンネル開通による路線変更に伴い廃止されました。駅は、石切駅と生駒駅（当時、近畿日本生駒駅）の中間地点、生駒トンネルの大阪方坑口近くに位置していました。

駅構造と歴史

孔舎衛坂駅は、対向式ホーム2面2線のシンプルな構造でした。駅舎は奈良方面ホームの大阪側にあり、大阪方面ホームへは構内踏切を通って移動する必要がありました。

この駅の歴史は、1914年（大正3年）7月17日に日下駅として開業したことに始まります。その後、1918年（大正7年）に鷲尾駅、そして1940年（昭和15年）6月には現在の駅名である孔舎衛坂駅へと改称されました。改称の背景には、1940年が皇紀2600年にあたり、神武天皇東征に関する聖蹟調査が行われたことが関係しています。駅周辺には、神武天皇と長髄彦が戦ったとされる伝説の孔舎衛坂に比定される尾根が存在することから、この地名が駅名に採用されたのです。

なお、戦前には、孔舎衛坂駅から分岐して天満橋筋四丁目に至る四条畷線が計画されていたことも記録に残っています。

駅名表記と読み方の揺らぎ

孔舎衛坂駅の駅名表記と読み方については、興味深い異同が存在します。「孔舎衛坂」「くさえざか」が正式な表記と読み方ですが、「孔舎衙坂」「くさかざか」とする記述も見られます。この違いは、『日本書紀』における「孔舎衛坂」の記述に誤字があったという説に由来します。江戸時代の注釈書『日本書紀集解』で初めて提唱されたこの説は、「草香」という地名が直前に記されていることから、「孔舎衛坂」は「孔舎衙坂」の誤写ではないかと主張しています。

文部省の聖蹟調査でも、当初は「孔舎衙坂」と発表されましたが、その後「孔舎衛坂」に修正されました。学術的には「孔舎衛坂」が採用されていますが、「孔舎衙坂」説も根強く残っているため、現在でも両方の表記が見られる状況です。この地名は古くから「くさか」と呼ばれており、近隣の学校名にも「孔舎衙」の表記が見られます。

廃止後の駅跡

孔舎衛坂駅は廃止後も駅舎の一部が残されています。石切駅から生駒方面へ歩くと、石切観音の参道沿いにその跡を見つけることができます。旧大阪方面ホーム跡には、「貫通石 東大阪線 生駒トンネル 昭和60年4月17日」と刻まれた石碑と神社が建立されています。また、旧生駒トンネルも残っていますが、現在は立ち入り禁止となっています。近鉄けいはんな線の生駒トンネル内には、この旧生駒トンネルにつながる緊急脱出路が設けられています。

孔舎衛坂駅は、歴史的な地名と、近代化による路線変更によって廃止された、近代日本の鉄道史の一端を垣間見ることができる貴重な存在でした。 その駅跡は、歴史と技術の両面から、往時の面影を伝えています。

隣の駅

近畿日本鉄道奈良線（石切駅 - 近畿日本生駒駅間旧線）
石切駅 - 孔舎衛坂駅 - 近畿日本生駒駅（現・生駒駅）

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