長髄彦

長髄彦（ながすねひこ）

長髄彦は、日本神話に登場する伝承上の人物であり、神武東征の際に神武天皇に抵抗した大和地方の豪族の長として知られています。

概要

『日本書紀』では長髄彦と記されますが、『古事記』では那賀須泥毘古、登美能那賀須泥毘古、登美毘古などの異名で登場します。彼は、神武天皇による東征の過程で、大和地方において抵抗勢力の中心人物として描かれています。

伝承によれば、長髄彦は饒速日命（にぎはやひのみこと）に仕えていました。『古事記』では、饒速日命が神武天皇に服属したことで物語は終結しますが、『日本書紀』では、長髄彦が自身の正統性を主張し、神武天皇との間で神璽を示し合ったにもかかわらず、最終的には饒速日命によって殺害されたとされています。

『先代旧事本紀』では、饒速日命は既に亡くなっており、宇摩志麻遅命（うましまぢのみこと）が長髄彦に帰順を促したものの、聞き入れられなかったため、宇摩志麻遅命が彼を殺害したと記されています。

長髄という名称は、『日本書紀』において邑（むら）の名に由来するとされています。

神話での内容

長髄彦は、妹である登美夜毘売（とみやびめ、または三炊屋媛）を饒速日命の妻として差し出し、自身も饒速日命に仕える身となります。饒速日命は、天の磐船に乗って河内国の哮ヶ峯（たけるがみね）に降臨した後、大和国の鳥見の白庭山に移ったとされています。

神武天皇が浪速国青雲の白肩津に到着後、孔舎衛坂（くさえのさか）で長髄彦は迎え撃ちます。この戦いで、神武天皇の兄である彦五瀬命が矢に当たり、後に命を落とすことになります。

その後、長髄彦は八十梟帥や兄磯城を討った皇軍と再び戦いますが、金色の鳶が神武天皇の弓弭（ゆはず）に止まり、その光によって長髄彦の軍は目を眩ませ、戦意を喪失したと伝えられています。

長髄彦は神武天皇に対し、饒速日命こそが真の天神の子であると主張し、自らが饒速日命に仕えている理由を述べます。そして、饒速日命が天神の子である証拠として、天の羽羽矢と歩靫（かちゆき）を示します。神武天皇も同じ物を示しますが、長髄彦は改心しません。最終的に、饒速日命自身が長髄彦を殺害したとされています。

中世の伝説

『曽我物語』などの中世の物語では、長髄彦には安日彦（あびひこ）という兄弟がいたとされています。また、中世の武将である安藤氏（後の子爵秋田家）は、長髄彦の子孫であると自称していました。

一説

長髄彦は、現在の生駒市北部・奈良市富雄地方にあたる旧添下郡鳥見郷付近に勢力を持っていた豪族であるという説があります。生駒市白庭台の住宅地には、長髄彦の本拠地があったとされる場所に碑が建てられています。

『古事記』、『日本書紀』、『先代旧事本紀』のいずれにも、長髄彦の父祖に関する記載はなく、その系譜は不明です。

添御県坐神社（奈良市三碓3丁目）の八木尚宏宮司によれば、神社の本当の祭神は長髄彦であるという伝承が地元には存在します。伝承によれば、長髄彦は侵略者であるイワレビコ（神武天皇即位前）に敗れて自決し、地元民がその御霊を祀る祠を建てたのが神社の始まりであるとされています。明治維新後、氏子が逆賊を祀ることを憚り、学者に相談した結果、武乳速之命（別名、天児屋命）を祭神とすることになったとのことです。

石切劔箭神社の社史によれば、饒速日尊は天照大神から大和建国の神勅を拝し、『十種の瑞宝』を授かっており、自らも『布都御魂劔』と日の御子の証である『天羽々矢』を携えて天磐船に乗り込み、物部八十の大船団を率いて高天原を出航したとされています。饒速日尊は河内・大和に上陸し、長髄彦は饒速日尊の徳に打たれ、その稲作や織物、製鉄の技術に感銘を受け、一族こぞって饒速日尊に従ったとされています。

長髄彦の妹である登美夜毘売（三炊屋媛）は饒速日尊との間に宇摩志麻遅命（うましまぢのみこと）をもうけました。その後、神武東征の際に、宇摩志麻遅命は長髄彦に神武天皇への帰順を促し、自身も一族を率いて神武天皇に忠誠を誓い、大和の統一が成し遂げられたとされています。

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