学生野球資格回復制度

学生野球資格回復制度（がくせいやきゅうしかくかいふくせいど）は、日本のプロ野球界で選手として活躍し、引退した人々が、アマチュア、特に学生や生徒を対象とした野球指導に携わるために必要な資格を再び取得できるように設けられた制度です。かつてプロの世界に身を置いた者がアマチュアを指導することには長年制限がありましたが、この制度はその緩和を目的としています。

対象となるのは、日本野球機構（NPB）に所属していた元選手だけでなく、日本独立リーグ野球機構（IPBL）に加盟するリーグの球団に所属していた経験者も含まれます。さらに、近年では海外のプロ球団出身者や、NPBファームリーグに参加する球団の出身者も対象に加えられるなど、制度の適用範囲は広がっています。

制度の概要

この制度は2013年（平成25年）に創設されました。資格を回復するためには、所定の研修会を受講することが必須条件となります。具体的には、プロ側が実施する研修会（1日間）と、学生野球側が実施する研修会（2日間）の両方、合わせて計3日間の受講が求められます。研修修了後、学生野球側の適性審査を経て認定され、指導を希望する学校が所属する連盟への登録手続きを行うことで、正式に指導者として活動できるようになります。ただし、母校以外で指導する場合は、別途、指導を希望する学校の所属連盟に指導者登録が必要となります。

制度創設以来、多くの元プロ野球選手がこの制度を利用して学生野球の現場に戻っています。しかし、原則として、プロ球団の監督やコーチといった指導的な肩書で在籍している元選手は、資格回復の対象とは認められていません。例外も存在し、例えば2020年には、当時シアトル・マリナーズの会長付特別補佐兼インストラクターを務めていたイチロー氏が、特例として資格回復の認定を受けたことが大きなニュースとなりました。

なお、プロ野球経験を持たない学生野球指導者が、一時的にプロ野球のコーチや監督を務めた後に退団した場合の扱いについては、明確な規定がないとされています。一方で、スカウトや球団職員としてプロ球団に勤務した後、アマチュア指導の現場に復帰した例はあります。

注意点として、NPBから無期または永久の失格処分を受けた選手は、本制度の研修会を受講することができません。

プロアマ規定の歴史的変遷

プロ野球とアマチュア野球の間には、長年にわたり深い溝が存在しました。この関係性は、時代の流れとともに徐々に緩和されていきました。

1950年（昭和25年）: 日本学生野球協会が学生野球憲章を改正し、プロとの対戦を禁じました。これがプロアマ間の断絶の始まりとされています。
1961年（昭和36年）: プロ球団によるアマチュア選手への過度なスカウト活動が問題化し、「柳川事件」「門岡事件」といった騒動が発生。これにより、社会人野球側がプロとの関係断絶を宣言し、日本学生野球協会もこれに同調しました。
1973年（昭和48年）: 社会人野球がプロ経験者の臨時コーチ受け入れを解禁。大学野球でも、元プロが母校で臨時コーチを務めることが認められるようになりました。
1984年（昭和59年）: 教員として10年以上の勤務経験がある元プロ選手に限り、高校野球部の監督就任が可能となりました。プロアマ断絶後、初めて高校監督に就任した元プロ選手は、元東映フライヤーズの後原富氏でした。
1994年（平成6年）: 高校球界への復帰規定が緩和され、教員歴が10年から5年に短縮されました。
1997年（平成9年）: さらに緩和が進み、高校教員歴が5年から2年に短縮されました。
2005年（平成17年）: 元プロ選手の大学野球部監督就任が可能となり、現役プロ選手の母校での自主トレーニングも解禁されました。
2013年（平成25年）: 高校野球監督に就任するための教員歴規定が撤廃されました。これと同時に、プロ側とアマ側がそれぞれ設ける研修会を修了し、適性審査を経ることで資格回復が認められる、現在の学生野球資格回復制度が制定されました。
2015年（平成27年）: 日本独立リーグ野球機構に所属するリーグ（四国アイランドリーグplusやベースボール・チャレンジ・リーグなど）の出身者も、研修受講の対象に加えられました。
2018年（平成30年）: 海外のプロ球団出身者も研修受講の対象となりました。
* 2024年（令和6年）: NPBファーム・リーグに参加する新球団（オイシックス新潟アルビレックスBC、くふうハヤテベンチャーズ静岡）の出身者も、研修受講の対象となりました。

資格回復のプロセス

資格回復は以下の段階を経て行われます。

1. NPBプロ研修会（1日間）の受講
2. 学生野球研修会（2日間）の受講
3. 学生野球適性審査申請
4. 学生野球指導登録届の提出（指導を希望する学校の所属連盟へ）

研修内容

研修では、学生野球憲章や関連規約、指導上の倫理、野球技術の指導法など、学生野球指導者として必要な知識や心構えについて学びます。

特例措置

野球殿堂入りを果たしている対象者に限っては、通常の3日間研修ではなく、1日間の研修受講とレポート提出をもって代替することが認められています。

資格の喪失

学生野球資格回復制度によって得た資格は、プロ球団と再び選手契約を結んだ場合、自動的に喪失します。ただし、プロ球団を再び退団した後は、改めて研修など必要な手続きを経ることで、再度資格を取得することが可能です。

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