宇下人言

『宇下人言』とは

『宇下人言』（うげのひとこと）は、江戸時代中期の老中であった松平定信により書かれた自叙伝であり、回顧録としての役割を果たしています。文書は全4巻にわたっており、そのタイトルは松平定信の名の「定」と「信」を分解して作られていると言われています。具体的には、「定」の字を「宇」「下」に分け、「信」の字を「人」「言」に分ける形で由来しています。

書かれた時期

『宇下人言』は文化13年10月23日（1816年12月11日）の日付が奥付に記されており、このことから文化13年ごろに執筆されたと考えられています。定信の生涯や考え方、藩政の詳細を文書に残した作品であり、彼の誕生から老中を辞任する寛政5年（1793年）までの出来事が編集されています。

内容の特徴

この文書では、まず白河藩の藩政に関する事項が記されており、特に老中としての定信が推進した寛政の改革に関する内情が詳しく述べられています。さらに、彼自身の学問に対する見解や思想も詳細に記載されており、定信の人物像や当時の政治状況を理解する上で非常に重要な資料となっています。

定信は、自身の書を家族や藩主以外の者に触れさせないよう厳格に制限し、作品は三重の木箱に封じ込められ、家臣の田内親輔によって保管されました。しかし、その後定信の後継者は桑名藩に転封され、これによって『宇下人言』の存在は忘れ去られることになりました。

再発見と出版

明治時代に入ってから、偶然に封印が解けて文書が再発見される事態が起こりました。昭和3年（1928年）には定信の没後100年を記念して、関係者による刊行が行われ、広く頒布されています。現在、原本は天理図書館に所蔵されており、また岩波文庫からも出版されています。

結論

『宇下人言』は単なる自叙伝を超え、松平定信の生涯や思想を理解する上で貴重な史料です。彼の時代における政治的な背景や改革の実施について詳しく知るための不可欠な文献として、今日でも多くの人々によって読まれています。これにより、江戸時代の日本の政治や社会についての理解が深まることが期待されます。

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