宇和島臓器売買事件

宇和島臓器売買事件

宇和島臓器売買事件は、2006年に愛媛県宇和島市にある宇和島徳洲会病院で発覚した、日本で初めて公になった臓器売買事件です。この事件は、臓器移植法（1999年施行）が施行されて以降、全国で初めて臓器売買が摘発された事例となりました。

事件の発覚

2006年2月、愛媛県警察に「知人に頼まれて腎臓を提供したが、約束の金銭が支払われない」という女性からの相談が寄せられたことが、事件発覚のきっかけとなりました。県警は直ちに捜査を開始し、臓器移植法違反（臓器売買の禁止）の疑いで、移植を受けた患者の男性と、仲介役と見られる内縁の妻を逮捕しました。腎臓を提供した女性も書類送検されています。警察は病院関係先を家宅捜索し、宇和島署に特別捜査本部を設置しました。

事件の背景

逮捕された患者は慢性腎不全を患っており、人工透析を受けながら宇和島徳洲会病院に通院していました。担当医であった泌尿器科部長の万波誠医師から、症状悪化のため移植を勧められ、手術を決意します。当初、内縁の妻が腎臓を提供する予定でしたが、医学的な理由で不適合となり、親族からの提供も得られませんでした。そこで患者は、当時借金を抱えていた女性に「腎臓を提供してくれたら借金に上乗せして謝礼を支払う」と依頼し、女性は患者の妻の妹と偽って病院で検査を受け、腎臓提供に至りました。

腎臓移植は9月末に行われ、患者と内縁の妻はドナーの女性に対し、11月に現金、翌2006年4月には新車を渡しました。しかし、女性は事前に約束された金額と違うことに不満を持ち、警察に相談。この時点で女性は臓器売買が犯罪であることを知らなかったといいます（移植を受けた患者とその妻は犯罪であることを認識しており、女性に口止め工作をしていました）。

捜査の結果、同病院では摘出された腎臓などの臓器を、必要とする患者に移植していた事例が過去11件あったことが判明しました。また、臓器移植に際して書面での約束を交わしていなかったり、杜撰な手術や管理体制も明らかになりました。さらに、鹿児島徳洲会病院でも、高齢患者から摘出された腎臓が、宇和島市立病院の女性患者に移植されていたことが発覚し、鹿児島県による調査が行われました。

裁判と判決

臓器移植法違反により、移植を受けた患者とその内縁の妻が起訴され、ドナーの女性は略式起訴されました。裁判では、患者が「臓器提供の謝礼は車だけの約束だった」「現金は女性の傷跡が大きく申し訳なく思い支払った」と供述するなど、ドナー女性の主張との食い違いが見られました。また、患者とその妻は「ドナーは他人で、対価を支払うことも医師に話していた」「万波医師から相場を聞いた」と供述。ドナー女性も「車がもらえないので万波医師に相談したところ、先生が患者に電話してくれた」と証言しました。万波医師はこれらの疑惑を全面的に否定し、立証も困難であったため、責任は問われませんでした。

2006年12月、松山地方裁判所宇和島支部は判決で、「臓器移植法の人道性、任意性、公平性という基本理念に著しく反し、移植医療に対する社会の信用を揺るがした」として、両被告人に懲役1年、執行猶予3年（求刑懲役1年）を言い渡しました。ドナーの女性は、罰金と追徴金、乗用車没収の略式命令を受けました。

事件の影響

宇和島臓器売買事件は、臓器移植医療における倫理的な問題や法規制の不備を浮き彫りにしました。事件後、臓器移植に関する議論が活発化し、法整備や倫理教育の強化が進められることとなりました。

関連書籍
山下鈴夫「激白 臓器売買事件の深層―腎移植患者が見た光と闇」（元就出版社）
村口敏也「この国の医療のかたち 否定された腎移植」（創風社出版）

関連項目
臓器売買
移植 (医療)
腎移植
臓器の移植に関する法律
* 宇和島徳洲会病院

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