宇宙ひも

宇宙ひも（コズミックストリング）は、物理学、特に宇宙論において議論される、時空に存在する特殊な領域を指します。これは、宇宙の相転移という現象と深く関連しています。

宇宙誕生直後、宇宙は非常に高温で均一な状態にありましたが、その後、温度が低下するにつれて、いくつかの相転移を経験したと考えられています。この相転移は、物質の状態が変化する現象であり、例えば、水が氷になるようなものです。しかし、宇宙全体が同時に一斉に相転移するわけではなく、異なる領域がそれぞれ独立に相転移すると考えられます。

この時、相転移のタイミングがずれた領域の境界には、「位相的欠陥」と呼ばれる特殊な構造が生じます。これは、物質が結晶化する際に、結晶粒の境界に格子欠陥ができる現象と類似しています。宇宙ひもは、この位相的欠陥の一種であり、線状（ループ状も含む）の構造を持つと考えられています。

宇宙では、初期の基本相互作用が4つに分かれる過程で、少なくとも3回の相転移があったと推測されています。また、因果律により、光速で情報が伝わる範囲内でしか一様な相転移は起こりえないため、宇宙には複数の位相的欠陥が存在する可能性が指摘されています。位相的欠陥には、宇宙ひもの他に、ドメインウォール、モノポール、テクスチャーなどがあります。

宇宙ひもは、その周囲の時空に角度欠損を生じさせ、通常360度であるはずの角度がそれよりも小さくなると考えられています。また、非常に大きな質量を持つとされ、初期宇宙における密度ゆらぎの原因となり、宇宙の大規模構造形成に関与した可能性や、ダークマターの候補としても議論されました。

ループ状の宇宙ひもは、重力波を放出しながら崩壊していくと考えられています。この重力波が宇宙の進化にどのような影響を与えるのか、また、宇宙ひもがどの程度存在しているのかを推定する試みも行われてきました。しかし、WMAP衛星による宇宙背景放射の温度ゆらぎの解析結果から、宇宙ひもの寄与は非常に小さいか、あるいは存在しない可能性が示唆されています。現在では、宇宙ひもが宇宙論に与える影響は小さいと考えられています。

関連する現象として、ツインクエーサーが挙げられます。これは、宇宙ひもの重力によって光が曲げられ、同一のクエーサーが二つに見える現象です。

宇宙ひもは、その特異な性質から、理論物理学の分野で研究が続けられていますが、その存在はまだ確認されていません。しかし、宇宙の初期状態を解明するための重要な手がかりの一つとして、今後も研究が続けられるでしょう。

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