宇都宮病院事件

宇都宮病院事件とは

1983年、栃木県宇都宮市にあった報徳会宇都宮病院で、看護職員による患者への暴行が原因で2名の患者が死亡した事件です。この事件は、精神科病院における人権侵害の実態を明らかにし、日本の精神医療体制に大きな変革をもたらすきっかけとなりました。

事件の背景

高度経済成長期、精神科病床数は急増し、多くの私立病院が開設されました。1958年の厚生省の通知により、精神科の人員基準が緩和され、医師や看護師の数が少ない状態でも病院運営が可能になりました。さらに、措置入院の国庫負担が増額されたこともあり、精神科病院は利益を上げやすい事業となりました。

この結果、精神科医の数不足や、内科医などが転科して精神科医となるケースが増加。宇都宮病院も1961年に内科から精神科へと転換しました。また、向精神薬の登場により、患者の興奮を抑えることが可能になり、少ない人員で多くの患者を管理できるようになったことも、精神科病院の拡大を後押ししました。

当時の精神科医療は、患者の人権が軽視されがちで、過剰収容による利益追求が横行していました。WHOも日本の精神医療に対して警鐘を鳴らしていましたが、改善は進みませんでした。

宇都宮病院の状況

宇都宮病院は1961年に石川文之進が開院。内科医であった石川は、東大医学部との関係を築き、病院を拡大させていきました。1970年代に入ると、患者への労働強要や虐待が常態化し、病床数も増加の一途を辿りました。

東大の医師たちは、宇都宮病院で患者への虐待が行われていることを認識していたにもかかわらず、研究費や謝礼を受け取り、黙認していました。病院側も東大の医師を利用し、常勤医の数を水増ししていました。

1981年には人件費削減のため、職員の昇給停止や定年退職が行われ、人員不足は深刻化。その状況下で、1983年に患者への暴行死事件が発生しました。

事件の発覚

1983年、宇都宮病院に不当に収容されていた患者が、東大病院で病院の内情を暴露したことがきっかけで、事件が明るみに出ました。東京大学精神科医師連合は調査チームを編成し、1984年に朝日新聞が事件を報道。世論の大きな注目を集め、国会でも精神障害者の人権保障が議論されるようになりました。

事件発覚時、病院には3名の医師しかおらず、患者の3割がアルコールや薬物依存症であったにもかかわらず、劣悪な環境で医療行為が行われていました。また、無資格者による診療や、患者への虐待も横行していました。

事件後の影響

事件後、東京大学医学部は関係医師に処分を下しましたが、病院との癒着は根深いものでした。また、病院関係者は虐待行為を「看護」と認識しており、事件発覚後もその行為を是認していました。

この事件をきっかけに、日本の精神医療に対する国際的な非難が高まりました。1987年には精神保健法が改正され、患者の意思に基づく任意入院制度や開放病棟が導入されるなど、患者の処遇改善が図られました。

事件の背景にある問題

この事件の背景には、精神科病院の閉鎖性、病院職員の倫理観の欠如、社会の精神科医療に対する理解不足など、多くの問題が複雑に絡み合っていました。また、宇都宮病院が「必要悪」として社会に存在し、対応困難な患者を収容していたことも、事件の温床となりました。

家族関係の悪化によって、措置入院させられるケースもあり、患者の人権が軽視される状況が生まれていました。この事件は、日本の精神医療における構造的な問題を浮き彫りにし、その後の精神医療改革の必要性を示すものとなりました。

その後

事件後、刑事裁判では、暴行を行った看護職員や院長が実刑判決を受けました。また、民事裁判では、不当に入院させられた患者が損害賠償を認められました。

事件から年月が経ちましたが、報徳会宇都宮病院の公式サイトや病院長だった石川文之進のウェブサイトには、事件に関する記録や記述は一切ありません。

宇都宮病院事件は、精神科医療における人権侵害の重大さを社会に知らしめただけでなく、日本の精神医療体制を見直す大きなきっかけとなりました。この事件から得られた教訓を忘れず、患者の人権を尊重した医療が実現されることを願います。

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