安井彦右衛門

安井彦右衛門：赤穂事件と影の役割

安井彦右衛門は、江戸時代前期に活躍した赤穂藩浅野氏家臣です。生没年は不明ですが、江戸家老として650石（江戸扶持9人半）を領していました。浅野長政の実家筋にあたり、代々浅野家に仕えた一族の庶流と考えられています。

彦右衛門は長年に渡り江戸家老を務め、重要な役割を担っていました。元禄14年（1701年）、浅野長矩が勅使饗応役を拝命した際には、上席家老の藤井宗茂と共に補佐役として尽力しました。高家への挨拶や連絡など重要な役割を担った一方、費用削減策をめぐって吉良義央の怒りを買ったという説があり、赤穂事件の遠因の一つとして語られています。

浅野長矩が吉良義央に刃傷に及んだ後、赤穂藩は改易され、江戸の町人や浪士による各屋敷への侵入といった騒乱が起こりました。広島藩からも警護の者が派遣されるほどの混乱の中、彦右衛門は3月16日に鉄砲洲上屋敷から退去。築地飯田町（現在の東京都中央区築地7丁目東部あたり）で藤井宗茂、槽谷勘左衛門、早川宗助らと共に生活していたと伝えられています。

赤穂浪士による吉良邸討ち入りには参加しておらず、事件後の動向は不明です。しかし、その子である弥右衛門は、浅野重臣・安井喜内の助力により広島藩に仕官し、子孫は代々重用され、明治維新まで続きました。広島大学の安井弥教授（分子病理学）は、その末裔であると言われています。また、東区牛田新町の法華宗・日通寺には、安井家歴代の墓が残されています。

いくつかの忠臣蔵関連の芝居では、彦右衛門が討ち入りにおける盟主候補として描かれ、堀部武庸ら急進派との関係が脚色されています。劇中では、彦右衛門は曖昧な態度を取り、陰口を言ったことで武庸の怒りを買ったとされています。討ち入り後には、高田資政と共に泉岳寺を訪れ、赤穂浪士への面会を申し出ますが、追い返されたという逸話も残されています。

このように、安井彦右衛門は赤穂事件において、表舞台には立たなかったものの、重要な役割を担っていた可能性が高い人物です。その生涯は、事件の複雑な背景や、藩内の勢力関係を理解する上で、重要な手がかりとなるでしょう。彼の存在は、史実とフィクションが複雑に絡み合った赤穂事件の奥深さを改めて感じさせてくれます。井上ひさし氏の『不忠臣蔵』にも登場するなど、様々な作品でその存在が取り上げられており、歴史研究においても注目すべき人物と言えるでしょう。彼の裏方としての活動や、事件後の消息については、今後の研究によって、さらに明らかになることが期待されます。

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