安壇美緒

安壇美緒（あだん みお）

1986年、日本の北海道函館市に生まれた小説家です。早稲田大学の第二文学部で学びました。

文学への関心は大学時代から深く、学業の傍ら、原稿用紙にして三十枚程度の短い小説を執筆していました。さらに、卒業論文として約百五十枚の中編小説を書き上げ、これを純文学系の新人賞に応募した経験は、後の作家活動の礎となったと言えるでしょう。彼女は、アメリカの作家トルーマン・カポーティの短編『クリスマスの思い出』を、自身の理想とする小説の形の一つとして挙げています。

安壇美緒が作家として世に出るきっかけとなったのは、2017年に自身が初めて手がけた長編小説『天龍院亜希子の日記』でした。この作品が第30回小説すばる新人賞を見事に受賞し、翌2018年の単行本刊行をもってプロデビューを果たしました。小説すばる新人賞の選考委員の一人であった著名な作家、五木寛之氏は、この作品について「作家の才能プラス、何か見えない力を背負った書き手だ」と述べ、安壇氏の持つ天性の筆力と、単なる技術や構成力だけではない特別な魅力を高く評価しました。『天龍院亜希子の日記』というタイトルは、日本近代文学を代表する作家、宮尾登美子の名作『鬼龍院花子の生涯』から着想を得たものであると、安壇氏自身が語っています。このことからも、彼女が日本の古典文学に対しても深い敬意と関心を寄せていることがうかがえます。

デビュー作での鮮烈な印象の後も、安壇美緒は精力的に創作活動を続け、特に近年の活躍は目覚ましいものがあります。2022年に発表された小説『ラブカは静かに弓を持つ』は、文学界のみならず広い読者層から熱狂的な支持を集めました。この作品は、同年開催された第6回未来屋小説大賞を受賞。さらに翌2023年には、エンターテインメント小説の新たな才能を見出す第25回大藪春彦賞も受賞し、二つの権威ある賞を連続して獲得するという快挙を達成しました。加えて、全国の書店員が最も売りたい本を選ぶ「本屋大賞」においても、第20回で第2位に選出されるなど、その文学的価値とエンターテインメント性が見事に融合した作品として、高い評価を確立しました。『ラブカは静かに弓を持つ』の多方面での受賞と高いランキングは、安壇美緒を現代日本文学を牽引する若手作家の一人として位置づける決定的な出来事となりました。

安壇美緒の作品は、登場人物の複雑な内面や繊細な心の動きを、丁寧かつ力強い筆致で深く掘り下げることに定評があります。デビュー作で描かれた人間の業や情念から、『ラブカは静かに弓を持つ』で描かれる希望や再生の物語まで、一貫して人間の心の機微に寄り添い、読者に深い共感と感動を与えています。彼女の作品は、現代社会における人間の生き方や、困難に立ち向かう姿を問いかけるものが多く、読み終えた後にも長く心に残る余韻を残します。

これまでに刊行された主な単著としては、以下の三作品があります。

『天龍院亜希子の日記』：集英社より2018年3月に単行本として刊行され、2020年2月には集英社文庫として文庫化されています。
『金木犀とメテオラ』：集英社より2020年2月に単行本として刊行され、2022年2月には集英社文庫として文庫化されています。
* 『ラブカは静かに弓を持つ』：集英社より2022年5月に単行本として刊行されました。

また、単著としてまとめられる以前に、様々な文芸誌に短編小説や連載、あるいはエッセイが掲載されています。小説作品としては、『小説すばる』（集英社）に「天龍院亜希子の日記」の抄録（2017年12月号）や「あの燃え盛る硬質の」（2019年5月号）、単行本化以前の「ラブカは静かに弓を持つ」（2021年3月号から連載）が掲載されました。また、『小説推理』（双葉社）には「犬は吠えるが朝練は続く」（2020年5月号）が掲載されています。エッセイについても、『青春と読書』（集英社、2018年3月号）に「小説を書かなかった時間も、いつか小説を書くために使っていた」、『小説すばる』（集英社、2018年4月号）に「作家の目」、『小説NON』（祥伝社、2018年6月号）に「［個人的な単位］」、『小説推理』（双葉社、2018年9月号）に「私のとっておきシネマ」が寄稿されており、これらの寄稿文からは、彼女の創作に対する姿勢や、日々の感性の一端を垣間見ることができます。

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