安政柑

安政柑：因島が生んだ希少柑橘

安政柑は、日本原産の柑橘類の一種で、その大きさは晩白柚に次いで2番目とされています。ザボンの一種に分類され、独特の爽やかな風味とジューシーな果肉が特徴です。

その歴史は、安政年間（1854～1859年）に遡ります。広島県尾道市因島田熊町で、岡野末吉氏の園に、南方から持ち帰った柑橘の種から偶然に生まれた実生と考えられています。この実生は、一般的なザボンに比べて果皮が薄く、甘酸っぱさがバランス良く調和した食べやすい柑橘でした。そのため、地元では「青ン坊」と呼ばれ、静かに、しかし確実にその数を増やしていきました。

1910年（明治43年）、因島で開催された柑橘講習会に、農商務省園芸試験場長の恩田鉄弥博士が講師として来島されました。恩田博士は、この柑橘を「安政柑」と命名しました。

命名の由来には、安政柑の持つ独特の風味と特徴、そしてその大きさが、激動の安政時代の世相と重なるという説があります。爽快な風味、柔軟でジューシーな果肉、そして大粒の果実は、当時の人々にとって、希望や活力の象徴として映ったのかもしれません。

安政柑は、現在も広島県因島地方を中心に栽培されています。しかし、その生産量は多くありません。2005年の収穫量は308トン、2010年には185トンと減少傾向にあり、その多くは広島県（80%）で生産され、残りは愛媛県（20%）で生産されています。この希少性も、安政柑の価値を高める要因となっています。

安政柑は、その希少性と独特の風味から、近年では新たなブランド柑橘として注目を集めています。独特の風味は、ジュースやジャム、果実酒など、様々な加工品にも利用されており、その可能性は無限大です。

安政柑は、単なる柑橘ではありません。歴史と人々の努力、そして自然の恵みによって育まれた、因島地方の宝と言えるでしょう。その希少な風味を味わうことで、安政時代の息吹を感じることができるかもしれません。

近年では、安政柑の生産者や販売者によるブランド化の取り組みなども進められており、より多くの人に安政柑の魅力が伝わるよう、様々な工夫が凝らされています。今後、安政柑が、より広く知られ、愛される柑橘となることを期待しています。

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