安明進

安明進（アン・ミョンジン）とは

安明進（アン・ミョンジン、안명진、1968年 8月26日 - 消息不明）は、北朝鮮の元特殊工作員です。1993年に脱北し、韓国に亡命しました。彼は、北朝鮮の朝鮮労働党中央委員会直属政治学校でスパイとしての教育を受け、その過程で日本人拉致被害者を目撃したと証言しました。彼の証言が、1970年代後半から1980年代にかけて発生した日本人拉致事件の解明に大きく貢献しました。2016年後半に中国で失踪し、現在も消息不明です。

生い立ちとスパイ教育

安明進は1968年 8月26日、北朝鮮黄海北道平山郡に生まれました。8年制の外国語学院で学んだ後、1987年に朝鮮労働党中央委員会直属政治学校に入学。そこで6年間にわたり、過酷な特殊工作員としての教育と訓練を受けました。1993年5月、朝鮮労働党三号庁舎作戦部所属の715連絡所に配属され、韓国への潜入を命じられます。

韓国への亡命

1993年9月、安明進は韓国に潜入する特殊部隊の一員として非武装地帯を隠密行動中に、韓国軍に投降し亡命を果たしました。彼が亡命を決意した背景には、スパイ教育中に読んだ金賢姫の手記『いま、女として』（1991年）がありました。この本は、工作員養成学校で「第二の金賢姫」が出ないように注釈付きで読まれていましたが、安明進は韓国が金賢姫を死刑にしていない事実から、自分も脱北しても死刑にならないと確信しました。また、対南工作のための「韓国人化教育」を受けるうちに、ソウルの街に憧憬を抱くようになったことも、亡命を後押ししました。

拉致問題の証言

1997年2月3日、安明進は日本人ジャーナリストの高世仁に対し、「1988年9月から1991年初めにかけて金正日政治軍事大学で横田めぐみさんを目撃した」と証言しました。この証言が突破口となり、1978年の一連のアベック失踪事件や、ヨーロッパに留学したまま行方不明になっていた日本人が北朝鮮に拉致されていた事実が明らかになりました。彼が北朝鮮で目撃した拉致被害者は、横田めぐみのほか、市川修一、蓮池薫、寺越武志、加藤久美子、古川了子、藤田進、田中実ら多数にのぼります。

拉致被害者家族との面会

安明進の証言を受けて、横田めぐみの両親、横田滋・早紀江夫妻が韓国を訪れ、彼と面会しました。当初、夫妻は安明進を恐ろしい人物だと想像していましたが、実際には礼儀正しい好青年でした。夫妻は安明進の話から、彼もまた北朝鮮の体制の犠牲者であると感じ、早紀江は別れ際に彼を励ましました。安明進はこの言葉に感銘を受け、拉致問題について積極的に語ることを決意しました。

日本での講演活動

1997年7月末から8月にかけて、安明進は日本で連続講演会を開催しました。彼は、拉致された日本人が工作員教育に必要な人材であり、むやみに殺されることはないと証言しました。また、拉致を指示したのは当時の最高指導者、金正日国防委員長であると証言しました。この証言は、命がけの勇気ある行動でした。安明進は、拉致被害者の市川修一が赤いネクタイを好んでいたという具体的な証言もしており、彼の証言の信憑性を高めました。

証言に対する疑問と反論

安明進の証言には、いくつかの疑問も提起されました。例えば、「なぜ亡命後4年経ってから横田めぐみの目撃証言をしたのか」、「又聞きではないか」といったものです。また、過去のインタビューで拉致問題に言及しなかったことや、発言の根拠に対する疑問も存在します。しかし、金正日が拉致を認めたことや、他の証言との整合性から、彼の証言の信憑性は高いと考えられています。

人物像と活動

安明進は日本語が堪能で、1999年の韓国映画『シュリ』の演技指導も担当しました。彼は、工作員養成学校での自身の経験を映画に反映させています。しかし、2007年には麻薬密売事件で逮捕され、懲役刑を受けました。この事件以降、日本のメディアへの出演はなくなりました。

失踪とその後

2016年後半、安明進は中国で失踪しました。北朝鮮、中国のいずれかの情報機関、または両方によって殺害された可能性も指摘されています。彼の失踪は、北朝鮮による拉致問題の解明に尽力した彼の存在を、北朝鮮が脅威に感じていたことを示唆していると考えられます。

著書

安明進は、自身の経験をまとめた著書も出版しています。

『北朝鮮拉致工作員』(徳間書店、2000年)
『新証言・拉致横田めぐみを救出せよ!』(廣済堂出版、2005年)

これらの著書を通じて、彼の証言と拉致問題に対する理解を深めることができます。

まとめ

安明進は、北朝鮮の元工作員として、その証言を通じて日本人拉致問題の解明に大きく貢献しました。彼の勇気ある行動は、拉致被害者とその家族にとって大きな希望となりました。しかし、彼の失踪は、北朝鮮の脅威が今もなお存在することを示しています。彼の生涯と証言は、私たちが拉致問題を決して忘れてはならないことを教えてくれます。

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