安田田騏

安田田騏：江戸時代後期の絵師、銅版画家の生涯と作品

安田田騏（やすだでんき、1784-1827）は、江戸時代後期を代表する絵師であり、銅版画家としても高い評価を受けています。仙台出身の彼は、複数の著名な画家から指導を受け、独自の画風を確立しました。その生涯と作品を通じて、当時の芸術界の状況や彼の才能の一端を垣間見ることができます。

華麗なる師弟関係と多様な画風

安田田騏は、若くして狩野派の絵師である東東洋に師事し、絵画の基礎を学びました。その後、須賀川に移り住み、亜欧堂田善に入門。田善の画法を深く習得し、その中でも最も優れた門弟と称賛されました。さらに、白河藩主御内寺の東林寺住職に招かれ、松平定信が編纂した『集古十種』にも関与した画僧、白雲や谷文晁からも指導を受けました。このように、複数の異なる画風を学んだ経験が、彼独自の多様な表現へと繋がっています。

代表作「観魚亭」と銅版画技法

安田田騏の代表作として知られる「観魚亭」は、文化12年（1815年）に制作された銅版画です。白河候御用達常松家の別邸を描いたこの作品は、精緻な描写と繊細な陰影表現で高い評価を得ています。銅版画技法を用いることで、細密な表現が可能になり、風景の細部まで見事に描き込まれています。彼は銅版画以外にも、肉筆画も多数残しており、その技量は多岐に渡っています。

肉筆画作品と歴史的価値

「観魚亭」以外にも、安田田騏は多くの肉筆画を残しています。福島県立博物館所蔵の「諸葛孔明図」や「関羽図」、秋田県指定文化財である本覚寺所蔵の「白雲上人画像」、神戸市立博物館所蔵の「三囲雪景図」、そして「異国風景図」など、多様な題材と画風が見られます。これらの作品は、彼の高い技術と、師事した画家たちの影響を反映した、独自の様式を確立していることが見て取れます。特に「白雲上人画像」は、安田田騏の師である白雲を描いた肖像画であり、師弟関係の深さを物語る貴重な作品となっています。

没後と評価

安田田騏は、文政10年（1827年）4月11日、44歳の若さで没しました。彼の墓所は、福島県いわき市常磐湯本町の惣善寺にあります。妹の夫である柴原太真と門弟たちが建立した墓碑が、彼の功績を後世に伝えています。 白雲や田善と共に松平定信の画臣でもあった安田田騏は、短い生涯の中で数々の傑作を生み出し、江戸時代後期の絵画史に大きな足跡を残しました。彼の作品は、現在も高い評価を受け、多くの美術館や博物館に所蔵されています。彼の多様な画風と高い技術は、後世の画家たちに大きな影響を与え続け、日本の絵画史において重要な役割を果たしたと言えるでしょう。

参考資料

* 浮世絵の基礎知識 吉田漱、雄山閣、1987年

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