集古十種

『集古十種』は、江戸時代後期に松平定信の主導によって編纂された、古物・古美術に関する詳細な図録集です。この事業は、単なる古美術品の収集にとどまらず、日本の歴史と文化を深く理解しようとする試みでした。

編纂には、松平定信自身に加え、柴野栗山、広瀬蒙斎、屋代弘賢、鵜飼貴重といった学者や、絵師の谷文晁をはじめとする多くの専門家が携わりました。彼らは4年もの歳月を費やし、詳細な調査と記録に基づいてこの大著を作り上げました。

初版は寛政12年（1800年）に刊行され、その後も増補が重ねられ、最終的には全85冊に及ぶ大部なものとなりました。収録された文物は、碑銘、鐘銘、兵器、銅器、楽器、文房具、印璽、扁額、肖像、書画の10種類に分類され、それぞれの寸法、所在地、特徴などが詳細に記録されています。特に、谷文晁をはじめとする絵師たちによる模写図は、その美術的価値も高く評価されています。

編纂に加わった絵師は、谷文晁の他に、喜多武清、大野文泉（巨野泉祐）、僧白雲、住吉廣行、森川竹窓などがおり、彼らは奥州から九州まで日本全国を駆け巡り、寺社に所蔵されている古器物や書画を現地で写生しました。現地調査だけでなく、古美術品を直接取り寄せたり、既存の模本や写本を活用したりするなど、多岐にわたる方法で資料収集が行われました。

また、後篇にあたる「古画肖像部」は、明治25年（1892年）に松平康民によって大型着色折本として刊行されました。その後、明治37年（1904年）には青木嵩山堂から、明治41年（1908年）には国書刊行会から再刊され、広く一般に公開されました。

『集古十種』は、単なる古美術品の目録にとどまらず、当時の文化や歴史、美術に対する深い理解を示す貴重な資料として、今日でも高く評価されています。その編纂を通じて得られた詳細な記録と模写図は、後世の研究者にとって欠かせない資料であり、日本の古美術研究に大きな貢献を果たしました。

参考資料としては、斎藤忠著『日本考古学史』（吉川弘文館、1974年）や、小林めぐみ氏による論文「集古十種の編纂-その目的と情報収集」（図録『あるく・うつす・あつめる 松平定信の古文化財調査 集古十種』福島県立博物館、2000年）などが挙げられます。これらの資料から、『集古十種』の編纂目的や情報収集の方法について、より深く理解することができます。

関連事項として、「前賢故実」「仏像図彙」「好古家」といった、歴史や文化、美術に関わる用語も参考にすると、より理解が深まるでしょう。

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