安直樹

安 直樹（やす なおき）

茨城県ひたちなか市出身。1977年10月6日生まれ。元車いすバスケットボール選手であり、現在は車いすフェンシング選手として活動。

経歴

スポーツをこよなく愛する活発な少年時代を送っていたが、14歳で左足股関節骨の難病を発症し、手術を受けることとなった。しかし、その手術過程で医療上の問題が発生し、結果として重度の後遺症を抱えることとなる。この障害を負った直後の心境について、「当時は障害者であることに対して非常にネガティブなイメージを持っており、自分がそうなったことへの衝撃は計り知れなかった。同級生の視線も辛かった」と、当時の苦悩を率直に語っている。一時は学校へ行くことさえ難しくなったが、母親の勧めを受けて訪れた車いすバスケットボールの練習場で、選手たちの迫力あるプレーに心を奪われる。障害を感じさせない躍動感あふれるその姿に魅了され、自らもこの競技の世界に深く身を投じることとなった。

競技開始からすぐに頭角を現し、ジュニア時代から優れた才能を発揮。後に加入した強豪クラブ「千葉ホークス」では、日本選手権で最優秀選手（MVP）や得点王に輝くなど、日本国内のトップ選手へと成長を遂げた。現在の心境としては、「手術でのアクシデントがなければ、今の自分はいない。むしろミスをしてくれて感謝しているくらいだ」と、障害を前向きに捉え、競技者としての道を切り拓いたことへの感謝の念を述べている。

2004年にはアテネパラリンピックに日本代表として出場。さらに、2007年からは3シーズンにわたり、日本人選手として初めてイタリアのプロリーグでプレーするという快挙を成し遂げた。国際舞台での活躍は、日本の車いすバスケ界に新たな可能性を示した。2010年のバンクーバーパラリンピックでは、聖火ランナーとして大役を務めている。イタリアでの挑戦を終えて帰国後は、エイベックスとの契約のもと、国内トップリーグのチーム「NO EXCUSE」に所属。推定年俸500万円という、当時の車いすバスケ界では異例とも言える高収入を得るトッププロアスリートとして活躍した。

2014年7月、20年以上に及ぶ車いすバスケのキャリアに突然の終止符を打つことを表明。「東京で開催されるパラリンピックで、今度は違う競技で結果を残したい」という強い意志が、電撃的な引退の動機となった。

引退後は、夏季パラリンピック競技のうち、陸上と水泳を除く様々な種目への挑戦を開始。2015年3月には車いすフェンシングを始め、わずか1ヶ月後の4月には早くも日本代表に選出されるという驚異的な適応力を見せた。同年7月に出場したワルシャワでのワールドカップでは、一次リーグ全敗という結果に終わったものの、「東京での目標達成を考えれば、参加したことに大きな意味があった。一度も完封負けはしなかったし、収穫は大きかった」と、常に前向きな姿勢を崩さなかった。2020年の東京パラリンピック開催時には42歳となっていたが、「フェンシングという新しい競技に出会えたことが、本当に素晴らしい経験になっている」と語っている。2017年10月には、東京メトロに入社している。

人物

車いすバスケットボールを「イスバス」と親しみやすい呼称で広める活動に積極的に取り組んでおり、その甲斐あって現在ではウェブ辞書などでも「イスバス」という言葉が広く認知されるまでになっている。これは、障害者スポーツへの関心や理解を深める上で、彼の貢献が大きいことを示している。

日本のトップアスリートとして競技活動を行う傍ら、全国各地の小中学校などで講演活動も精力的に行っている。「私のプレーや経験を通じて、“何かに本気で打ち込むことの素晴らしさ”を伝えたい」というメッセージを掲げ、障害の有無に関わらず、子供たちや保護者を含む多くの人々に感銘を与えている。

主な所属クラブ（車いすバスケットボール）

千葉ホークス
オーストラリア ナショナルリーグ Wentworthville Wheelkings
イタリアリーグ PDM TREVISO
イタリアチャンピオンリーグ セリエA GSD ANMIC-SASSARI
イタリアチャンピオンリーグ セリエA porto torres
NO EXCUSE

主な個人成績（車いすバスケットボール）

2000年 全国ジュニア車椅子バスケット大会 ベスト5
2001年 全国ジュニア車椅子バスケット大会 ベスト5、日本車椅子バスケットボール選手権大会 ベスト5
2002年 日本車椅子バスケットボール選手権大会 得点王
2003年 日本車椅子バスケットボール選手権大会 優勝・MVP、アメリカNWBA Division2 National Championship 優勝（Lakeshore Storm）、北九州チャンピオンズカップ国際車椅子バスケットボール大会 日本代表
2004年 アテネパラリンピック 日本代表、日本車椅子バスケットボール選手権大会 ベスト5・得点王、アジア・オセアニア大会 日本代表、国際親善 車椅子バスケットボール大阪大会 日本代表
2005年 日本車椅子バスケットボール選手権大会 優勝、国際親善 車椅子バスケットボール大阪大会 日本代表、北九州チャンピオンズカップ国際車椅子バスケットボール大会 日本代表
2006年 世界車椅子バスケットボール選手権大会 アジア・オセアニアゾーン予選 日本代表、デンソー・あいおい損保杯WAFCA車いすバスケットボール東アジア交流大会 日本代表、日本車椅子バスケットボール選手権大会 優勝
2007年 日本車椅子バスケットボール選手権大会 優勝・ベスト5、オーストラリアナショナルリーグ ウィルキングス移籍（ファイナルトーナメント3，4位決定戦で30得点）、イタリアプロリーグ PDM Trevisoへ移籍（日本人初）
2008年 イタリアンチャンピオンズリーグ PDM Treviso 5位（個人得点ランキング3位）
2009年 イタリアンチャンピオンズリーグ PDM Treviso 4位（個人得点ランキング6位）、イタリアチャンピオンリーグ セリエA GSD ANMIC-SASSARI に移籍、イタリアチャンピオンリーグ セリエA Porto Torres に移籍
2010年 バンクーバーパラリンピック 聖火ランナー

関連項目

障害者スポーツ
医療事故
イスバス

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