安達喜幸

安達喜幸：北海道開拓を支えた建築家

安達喜幸（あだち きこう、1827年 - 1884年）は、明治時代に北海道の洋風建築を牽引した建築技術者です。彼は、札幌市時計台、豊平館、北大第2農場モデルバーンといった、現在も札幌に残る重要な建築物の設計・監督を手がけました。彼の業績は、北海道の近代化に大きく貢献しただけでなく、日本の建築史においても特筆されます。

生い立ちと初期の活躍

安達喜幸は、文政10年（1827年）に江戸で代々大工棟梁を務める家に生まれました。幼い頃から建築の技術を磨き、薩摩藩などの武家屋敷の建築にも携わりました。体格にも恵まれ、多くの職人を率いる統率力と人望を備えていたと伝えられています。

幕府崩壊後、安達は横浜方面での土木建築工事に従事し、天皇行幸の際の行在所を短期間で完成させるなど、その才能を発揮しました。また、高輪築堤の工事では、品川八ツ山下の跨線橋の架設を担当し、日本初の鉄道敷設に貢献しました。

北海道での活躍

明治4年（1871年）、安達は明治政府により工部省会計局営繕方附属に任ぜられ、喜幸と改名しました。同年、開拓使御用掛を拝命し、札幌に赴任。アメリカの開拓技術を導入し、寒冷地に適した洋風建築を推進するという開拓使の至上命題のもと、その力を発揮します。

開拓使では、お雇い外国人技師団が求める建築技法を理解し、設計図を作成する能力が不可欠でした。安達は、その重要な役割を担い、数々の建築物を手がけました。

主要な建築物

開拓使札幌本庁舎（後の北海道庁旧本庁舎、赤れんが庁舎）： アメリカン・バロック様式を取り入れた木造建築で、北海道開拓の象徴となりました。明治12年に焼失。
豊平橋： お雇い技師N・W・ホルト設計の木造トラス橋の架橋工事監督。
札幌農学校（現・北海道大学）附設・模範家畜房（モデルバーン）： W・S・クラークの構想を基に、W・ホイラーの原案によって安達が設計・施工を手掛けました。アメリカ中・西部開拓地で使用されていたバルーンフレーム工法を導入した実用的な建築です。
札幌農学校演舞場（現・札幌市時計台）： W・ホイラーの原案による実施設計。簡素平明な外観が特徴で、北海道開拓のシンボルとなりました。モデルバーンと同様にバルーンフレーム工法が採用されています。
* 豊平館： 開拓使の代表作であり、明治初期洋風建築の主要作品の一つ。アメリカ風建築様式を基調としながらも、ヨーロッパ建築様式や日本の伝統的な装飾が融合したユニークな建築です。明治天皇も宿泊しました。

安達の建築は、アメリカの建築技術を基盤としながらも、日本の気候や文化に合わせた独自のスタイルを確立しました。彼は「開拓使洋風建築様式」とも呼べる、独自のスタイルを短期間で築き上げたのです。

その後

開拓使廃止後は、北海道事業管理局で建築工事を率いましたが、明治16年（1883年）に根室県庁舎建設のため出張中に病に倒れ、東京で療養するも翌年死去しました。彼の遺骨は、品川の法禅寺と札幌の中央寺に埋葬されましたが、後に札幌・里塚霊園にまとめられました。

安達喜幸の名は、長い間世に知られることはありませんでした。しかし、道庁建築部の遠藤明久による資料の発見と研究、そして安達の孫である安達力の協力により、彼の経歴と業績が明らかになりました。

安達喜幸は、北海道開拓の歴史において、重要な役割を果たした建築家です。彼の建築物は、今も札幌の街並みに残り、その功績を伝えています。

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