宝江渡船

宝江渡船（ほうえとせん）は、かつて愛知県と岐阜県の境を流れる木曽川で運航されていた、歴史ある渡し船です。「宝江の渡し」や「笠松の渡し」とも呼ばれ、両岸の人々の往来を支えていました。

この渡し船は、現在の愛知県一宮市北方町宝江新田にあたる場所と、岐阜県羽島郡笠松町港町の間を結んでいました。その位置は、現在の木曽川橋から約200メートル上流に相当します。美濃国側、すなわち現在の岐阜県側の船着場は、古くから栄えた笠松湊でした。

宝江渡船の起源は、もともと下流にあった里小牧渡船（里小牧の渡し）に遡ります。これは尾張国葉栗郡里小牧村（現在の一宮市木曽川町里小牧）と美濃国羽栗郡三ツ屋村（現在の笠松町長池）の間で運航されていました。

歴史を刻む出来事として、慶長5年（1600年）の関ヶ原の戦いに関連する逸話が残されています。東軍に属した池田輝政の軍勢が北方村付近で木曽川を渡ろうとした際、流れが速く困難を極めました。その時、里小牧の渡しの船頭であった源左衛門と嘉右衛門の二人が案内役を務め、無事渡河を成功させたと伝えられています。この功績に対し、二人の船頭は名字帯刀を許される恩賞を受け、以降、源左衛門は高橋姓を、嘉右衛門は広瀬姓を名乗り、両家が代々渡し守を務めることになりました。

元和3年（1617年）、里小牧渡船は現在の場所である宝江に移転し、「宝江渡船」と名称を改めました。この頃、尾張藩は宝江渡船を重要な交通路、すなわち官道の一つである岐阜街道（鮎鮓街道とも呼ばれた）の一部として指定し、その重要性が高まりました。

明治時代に入り、交通網の近代化が進む中で宝江渡船も変遷を遂げます。明治6年（1873年）時点での運賃は、人が1銭1厘5毛、馬や駕籠が3銭4厘5毛でした。明治11年（1878年）10月17日、明治天皇がこの地を巡幸されるにあたり、渡し守であった高橋家と広瀬家は私財を投じ、長さ494メートル、幅3.6メートルの船橋「宝橋」を架けました。御巡幸当日は無料で開放されましたが、翌日からは有料となり（人9厘、人力車4厘、馬1銭8厘）、これに伴い宝江渡船は一時廃止されました。

しかし、明治14年（1881年）5月、宝橋が流されてしまったため、宝江渡船の運航が復活します。その後、明治18年（1885年）には運営主体が宝橋組となりました。

さらに明治19年（1886年）6月1日、官設鉄道が一ノ宮駅（現・尾張一宮駅）から木曽川駅まで延伸されると、宝江渡船は列車の発着時刻に合わせて運航を行うようになります。翌明治20年（1887年）4月25日には、木曽川橋梁が完成し、鉄道が木曽川駅から加納駅まで延伸されたため、多くの人々が鉄道を利用するようになり、宝江渡船の利用者は減少しました。

明治24年（1891年）10月28日に発生した濃尾地震により木曽川橋梁が損傷を受けると、宝江渡船は翌年にかけて、鉄道の代替輸送という重要な役割を一時的に担いました。

最終的に、宝江渡船はその長い歴史に幕を下ろします。明治43年（1910年）2月、現在の木曽川橋（初代）が架けられたことにより、渡し船としての役目を終え、廃止となりました。

現在、一宮市北方町側には宝江渡船の歴史を伝える石碑や案内板が建立されています。また、笠松町側の笠松湊跡は笠松みなと公園として整備されており、当時の雰囲気を偲ばせる石畳が残されています。宝江渡船は、木曽川を渡る交通の要衝として、また地域の歴史を物語る存在として、今にその名を留めています。

もう一度検索