実秋本源氏物語系図

実秋本源氏物語系図：室町時代の源氏物語系図とその謎

一条実秋（清水谷実秋）の名にちなみ命名された「実秋本源氏物語系図」は、古系図に分類される源氏物語系図の一つです。室町時代の公卿である一条実秋が作成したと伝えられていますが、その真偽は不明です。現在、ほぼ同一の内容を持つ3本の写本が、専修寺秋香台文庫に所蔵されています。

3本の伝本と成立過程

3本の伝本は、それぞれA本、B本、C本と呼ばれ、内容はほぼ同一です。わずかな誤写を除き、本文、筆跡、字数、改行に至るまで一致しています。しかし、外見はそれぞれ異なっています。この3本の成立過程については、権威ある伝本が繰り返し書写されたか、古系図の書写に熱心な人物が複数写本を作成したかの2つの可能性が考えられています。特にC本は、A本またはB本を底本として、ミセケチによる訂正が加えられていることから、後世の写本であることが明らかです。しかし、A本とB本のどちらがより古い祖本なのか、あるいは別の祖本が存在したのかは、現時点では不明です。

他の系図との比較：巣守関係の記述と人物数

実秋本には、「巣守三位」という人物に関する記述があり、「琴ひきなり　手習の巻にあり」と記されています。しかし、現存するどの源氏物語の写本にも、手習の巻に巣守に関する記述はありません。この記述は、単なる書き誤りと考えられています。また、実秋本は巣守三位の兄弟姉妹についての記述がなく、他の系図と比較して特異な点です。

実秋本に記載されている人物の数は179人です。他の系図と比較すると、実秋本は比較的多くの登場人物を収録していることが分かります。常磐井和子は、系図に収録されている人物数が少ないほど古い原型に近いという仮説を唱えており、この仮説に基づけば、実秋本は比較的新しい系図であると言えるでしょう。

研究史と翻刻

実秋本は、池田亀鑑によって最初に紹介され、『源氏物語大成　研究篇』に掲載されました。その後、常磐井和子が追加で2本の写本を発見し、『源氏物語古系図の研究』で詳しく分析しました。常磐井の研究は、実秋本の成立過程や特徴、他の系図との比較といった多角的な分析を行い、実秋本研究における重要な成果となっています。

まとめ

実秋本源氏物語系図は、3本の伝本が現存する、室町時代の源氏物語系図です。その成立過程や内容、他の系図との比較を通して、源氏物語の受容史や系図の成立過程を理解する上で貴重な資料となっています。今後さらなる研究により、実秋本の謎が解き明かされることが期待されます。

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