実隆本源氏物語系図

実隆本源氏物語系図：室町時代の源氏物語研究の集大成

三条西実隆（1458-1537）は、室町時代の公卿であり、源氏物語研究において重要な役割を果たした人物です。その業績として最も知られるのが、『実隆本源氏物語系図』（以下、実隆本）です。これは、源氏物語に登場する人物たちの系図を詳細に記したもので、現代の源氏物語研究においても貴重な資料となっています。

実隆本以前の系図

実隆本が登場する以前にも、源氏物語の系図は存在していました。それらは主に九条家本の流れを汲むもので、現存する青表紙本や河内本といった一般的な本文が成立する以前の本文に基づいて作られていたため、青表紙本とは整合しない部分も少なくありませんでした。当時の標準的な本文となりつつあった青表紙本とは異なる、独自の系譜や人物関係が記述されていたのです。

実隆本の成立と特徴

実隆は、それまでの古系図を基に、独自の系図を作成しました。彼は、三条西家に伝来していた古系図を写したり、貸し借りしたりしながら、自らも綿密な調査と検討を重ねました。さらに、宗祇や肖柏といった源氏物語に造詣の深い知識人たちと議論を交わし、彼らの知見も取り入れながら系図を完成させていったのです。

実隆本は、それまでの古系図とは形式と内容においていくつかの点で異なっていました。最も大きな違いは人物の配置にあります。古系図では、長子から順に子孫を記述し、世代を遡って次子を記述するという方法がとられていましたが、実隆本では、まず親の世代、次に子の世代、さらに孫の世代と、世代ごとにまとまって記述されるようになりました。この違いは、系図全体の構成を理解する上で重要なポイントとなります。

実隆本の系統

実隆の日記『実隆公記』や現存する系図の内容、奥書などを基に、少なくとも4～5種類の系統の実隆本が存在したと考えられています。これは、実隆が系図を一度に完成させたのではなく、長期間にわたり繰り返し検討を加え、改訂・発展させていったことを示しています。

代表的な系統として、1488年（長享2年）本、1499年（明応8年）本、1504年（文亀4年）本、1509年（永正9年）本などが挙げられます。長享2年本は、実隆が作成した最初の版とされ、伏見宮邦高親王に献上されました。明応8年本、文亀4年本と改訂が重ねられる中で、人物の配置方法や記述内容に変化が見られます。文亀4年本では、人物の配置方法が統一され、実隆本の完成形に近いものになったと考えられています。

『実隆公記』の記述

『実隆公記』には、源氏物語系図の作成に関する記述が多数残されています。これらを読むと、実隆が系図の作成にどれほど熱心に取り組んでいたかがわかります。例えば、知識人たちとの議論の様子や、古図書の調査、書き写し、校合といった作業の様子などが克明に記されています。これらの記述は、実隆本の成立過程を理解する上で貴重な情報源となります。

現存する実隆本

現在、複数の写本が様々な機関に所蔵されています。これら写本を比較検討することで、実隆本がどのように改訂されていったのか、また、当時の源氏物語研究の様子を伺い知ることが出来ます。

まとめ

実隆本は、単なる人物系図ではなく、室町時代の源氏物語研究の集大成とも言うべきものです。実隆の綿密な調査、知識人たちとの議論、そして長年にわたる改訂・発展の歴史は、源氏物語研究の歴史を考える上で極めて重要な意味を持ちます。その内容は、現代の研究者にとっても、貴重な知見を提供し続けています。

もう一度検索