室伏鴻

室伏 鴻（むろぶし こう、1947年6月14日 - 2015年6月18日）は、日本の現代舞踏界において、その孤高かつ圧倒的な存在感を放ったダンサーであり、振付家でした。東京都に生を受け、舞踏家としての道を歩み始めます。

舞踏との邂逅と初期の活動

1969年、室伏は日本の現代舞踏の創始者の一人である土方巽に師事し、その哲学と身体表現の根源に触れます。これは彼の芸術家としての形成において決定的な時期となりました。その後、1972年には舞踏集団「大駱駝艦」の創立メンバーとしてその旗揚げに参加。初期の舞台創造に深く関与し、出演もしています。

彼の活動は舞台上に留まらず、舞踏文化の普及にも力を注ぎました。1974年には舞踏専門の新聞「激しい季節」を編集・刊行し、言論の面からも舞踏の世界を発信します。同年には、女性舞踏グループ「アリアドーネの会」をプロデュースし、新たな才能の発掘と育成にも尽力しました。この「アリアドーネの会」は、後の彼のキャリアにおいて重要な役割を果たします。

自身の世界「背火」の構築と国際的評価

1976年、室伏は自身の舞踏派「背火」を結成し、その活動の拠点として福井県に稽古場「舞踏伽藍北龍峡」を築きます。自然の中に囲まれたこの場所は、彼自身の舞踏を深化させるための重要な空間となりました。「背火」は、彼の追求する身体表現の可能性を探求する場となります。

室伏の芸術が国際的に注目される契機となったのは、1978年に行われたパリ公演「最後の楽園—彼方への門」でした。この公演は、「アリアドーネの会」と「背火」を率いて実施され、大きな成功を収めます。この成功は、当時のヨーロッパにおける日本の舞踏に対する認知度を飛躍的に高めることにつながりました。日本の前衛芸術としての舞踏が、海を越えて広く受け入れられる端緒を開いたのです。この成功を受けて、室伏は1981年と1982年にはヨーロッパ各地でツアーを行い、国際的な舞踏家としての地位を確固たるものにしました。

プロデュース活動とカンパニーの変遷

室伏はダンサー、振付家としてだけでなく、プロデューサーとしても多岐にわたる活動を展開しました。1974年に「アリアドーネの會」の活動のために海王企画を設立し、1984年までその芸術監督を務めました。1981年には海王企画に代わる組織としてLotus Cabaret arcを設立。また、同年には東京に実験的な空間「Shy」を開設するなど、新たな表現の場を創造することにも意欲的でした。その後も「Ko Murobushi Company」（1986年）、「Ko&Edge Co」（2003年）など、自身の活動の形態に合わせて様々なカンパニーを立ち上げ、自身の芸術を追求し続けます。

彼の創作活動は多岐にわたり、1970年代から2010年代にかけて数多くの作品を発表しました。初期の代表作とされる「牝火山」や、国際的な成功を収めた「最後の楽園」、そして晩年のコラボレーション作品など、その表現は常に進化し続けました。また、舞踏公演だけでなく、映画作品にも出演するなど、活動の幅は広がりを見せました。

突然の訃報

国際的な活動を続ける中、2015年6月18日、中南米公演のために滞在していたメキシコシティにおいて、心筋梗塞のため急逝しました。享年68歳でした。彼の突然の死は、世界の舞踏界に大きな衝撃を与えましたが、彼が切り開いた道と、残した膨大な作品群は、今なお多くの後進たちに影響を与え続けています。室伏鴻は、その身体をもって舞踏の可能性を極限まで追求し、日本の舞踏を世界に知らしめた偉大な芸術家として、その功績は長く記憶されるでしょう。

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