宮武正道

宮武正道：言語への情熱を燃やした異才の言語学者

宮武正道（1912年9月6日 - 1944年8月16日）は、日本の言語研究者であり、特にマレー語の専門家として知られています。大学の職には就かず、生家の経済力を背景に生涯を学問に費やし、30冊以上の著書を自費出版しました。正道と命名されましたが、執筆活動を始める頃に同じ漢字で「せいどう」と名乗るようになりました。

生涯

幼少期

1912年、奈良県奈良市で製墨業を営む家庭に生まれました。奈良県師範学校附属の幼稚園、小学校を経て、1925年に奈良県立奈良中学校に入学しました。中学時代は切手収集とエスペラントに熱中し、エスペラントは1年でマスターしたと言われています。また、切手収集家としても知られていました。

エスペラントの学習

1930年に中学校を卒業後、ラジオに興味を持ち大阪の無電学校に通いましたがすぐに退学し、同年4月に天理外国語学校馬来語部に入学しました。天理外国語学校では、マレー語を学びながら奈良エスペラント会で活動し、1930年10月には雑誌『EL NARA』を創刊しました。エスペラントに対する考え方は、同志の北村信昭と異なっており、北村がエスペラントを平和運動と捉えていたのに対し、宮武はエスペラントを単なる言語と捉えていました。エスペラント会の活動は、参加者の減少とともに衰退しました。

パラオ語の学習

天理外国語学校でパラオ語の学習を始めたきっかけは、1930年10月にパラオからの留学生エラケツとの出会いです。エラケツから聞いたパラオの伝説や民話を雑誌に寄稿し、『パラオ叢書』『南洋パラオ島の伝説と民謡』などの書籍も出版しました。当初はパラオ語にのみ関心があった宮武ですが、次第にパラオの土俗文化にも興味を持つようになりました。

宮武は、エスペラントやパラオ語以外にも、アラビア語、ドイツ語、ミナンカバウ語、ジャワ語、バタク語、タガログ語など、16もの言語を学んでいたと言われています。そのため、外国人からの手紙が頻繁に届き、警察から要注意人物として警戒されていました。

マレー語の研究

1932年、奈良市と東洋民族博物館の嘱託を受け、ジャワ・セレベス島への旅行で現地の新聞主幹と知り合ったことを機に、マレー語の学習に本格的に取り組みました。辞書を頼りに現地の新聞や雑誌を読み解き、『マレー語現代文ト方言ノ研究』などの著作を出版しました。宮武は、既存のマレー語辞典が古典文学に偏っていることに不満を持ち、新聞や雑誌に見られる「生きた」マレー語に関心を抱いていました。中国語、オランダ語、バタビヤ方言に由来する語彙も含めた小辞典を編纂し、後に『日馬小辞典』として出版しました。

1940年に日本政府が「大東亜共栄圏」を提唱すると、宮武の著作にも軍事色が強まり、軍事的な例文が掲載されるようになりました。また、日本の南方政策に伴い、言語政策にも関与するようになりました。漢字廃止論やマレー語のローマ字表記改革を主張し、「マレー語はエスペラント語と同様の国際語である」とまで述べていますが、これらの主張が実現することはありませんでした。

晩年

マレー語の専門家として活躍し、1943年にはスカルノの通訳を務め、1944年には奈良県から通訳事務を委託されました。同年にはタガログ語の辞書編纂にも着手しましたが、同年8月16日に自宅で病死しました。

著書

（著書リストは省略）

評価

宮武正道は、戦前・戦中におけるマレー語研究の先駆者として評価されています。特に、現在のインドネシアに相当する地域で使用されていたマレー語の研究に貢献しました。一方で、黒岩康博は、宮武の研究を、エスペラントやパラオ語など様々な言語遍歴の末にたどり着いたものと指摘し、東南アジアの民族語研究の根底には切手収集と同じエキゾティズムがあったと述べています。しかし、その活動は当時の日本政府の政策に都合よく合致していたとも指摘されています。

宮武正道は、言語に対する深い愛情と探究心を持ち、独学で多くの言語を習得し、その成果を数々の著作として残しました。彼の研究は、今日の言語学研究においても重要な貢献をしています。

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