家本秀太郎

家本秀太郎（いえもと ひでたろう）は、大正から昭和にかけて活躍した日本の経済学者です。1908年（明治41年）3月31日に兵庫県神戸市兵庫区に生まれ、1979年（昭和54年）10月12日にその生涯を閉じました。神戸大学経済学部名誉教授の称号を有し、日本の経済学界に大きな足跡を残しています。

家本は、現在の神戸大学の前身にあたる神戸商業大学を卒業しました。若くして健康上の問題を抱え、肺や肋膜を患った経験がありますが、学問への情熱を失うことなくキャリアを築き始めます。1938年（昭和13年）に母校である神戸商業大学の講師となり、経済学者としての道を歩み始めました。

第二次世界大戦後、大学が再編される中で、家本は1946年（昭和21年）に神戸経済大学（現在の神戸大学）の助教授に就任し、後に教授へと昇進しました。1953年（昭和28年）には神戸大学経済学部の教授となり、同大学の経済学研究・教育の中心的な存在として活動を展開します。1959年（昭和34年）には北米、欧州、アジアへの長期出張を行い、国際的な視点を深めました。

家本の学術的な貢献の中でも特筆すべきは、ノーベル経済学賞受賞者であるワシリー・レオンチェフの主著『アメリカ経済の構造:産業連関分析の理論と実際』（東洋経済新報社、1959年）の翻訳を手がけたことです。この著作は産業連関分析という画期的な手法を提示したものであり、その正確な邦訳は日本の経済学研究者にとって不可欠な資源となりました。この他にも、『社会会計と経済モデル』（東洋経済新報社、1964年）といった重要な翻訳書を世に送り出しています。

研究者・教育者としての活動に加え、家本は大学の運営にも深く関与しました。1967年（昭和42年）には神戸大学の評議員を務め、当時の日本全国の大学を揺るがした学園紛争への対応にあたります。この激動の時代における重責は、彼の健康に大きな負担をかけました。1962年（昭和37年）に肝炎で一時は危篤状態に陥った経験がありましたが、学園紛争対応のストレスから再び体調を崩し、1969年（昭和44年）には胆のうの切除手術を受けました。さらに、この頃から上下肢に麻痺を発症するという重篤な状況に見舞われます。

しかし、家本は強い精神力で病と闘い、リハビリテーションによって杖を使用して歩行できるまでに奇跡的な回復を遂げました。困難を乗り越え、翌年には大学に復職を果たし、教育・研究活動への情熱を再び燃やします。1971年（昭和46年）に神戸大学を定年退職した後、同大学名誉教授の称号が授与されました。その後は神戸学院大学経済学部で教授として教鞭をとり、晩年まで後進の育成に尽力しました。

長年の功績に対して、国からは正四位勲三等瑞宝章が贈られています。家本秀太郎の生涯は、経済学者としての卓越した業績、特にレオンチェフの重要著作の翻訳という形で日本の経済学界に貢献するとともに、度重なる病や大学紛争といった困難に立ち向かい、教壇に立ち続けた不屈の精神を示すものでした。彼の孫には、IT企業のクララオンライン創業者である家本賢太郎氏がいます。

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