家集

家集とは、平安時代を中心とした王朝和歌の世界において、特定の個人または一族の和歌を集めて編纂された歌集のことです。「家の集」という言葉を漢語風に表現したもので、編纂者が作者本人であるか、他人であるかは問われません。

家集の成立は、和歌が単なる儀式や社交の道具ではなく、個人の感情や世界観を表現する芸術作品として認識されるようになったことと深く関わっています。初期の家集は、子孫が先祖の残した歌をまとめる形で編纂されることが多かったのですが、院政期から新古今和歌集の時代にかけて、作者自身が自分の歌を選び、編纂する自撰家集が盛んになりました。鎌倉時代には、勅撰和歌集と並んで、多くの家集が作られました。

家集の最も古い例としては、10世紀前半頃に編纂されたと思われる人丸集、赤人集、家持集、猿丸集の四種が挙げられます。これらの歌集は、いずれも『万葉集』巻十四以降あたりから、それぞれの歌人の作品を抜き出して編纂されたものです。しかし、内容的には、その名を冠された歌人以外の作品も含まれているなど、不備な点も多く見られます。しかし、これらの初期の家集は、和歌が撰集という形式ではなく、個人の著作物として鑑賞されるようになったという点で、非常に重要な意味を持っています。

柿本人麻呂や山部赤人といった歌人が歌聖として崇拝されたことが、このような家集という意識が生まれるきっかけになったと考えられています。彼らの優れた歌は、人々に感動を与え、個人の歌集として後世に残される価値があると考えられるようになったのです。家集は、単なる歌のコレクションではなく、作者の人生や思想、感情を反映したものであり、王朝和歌の世界を理解する上で欠かせない資料と言えるでしょう。

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