宿屋の富

宿屋の富

「宿屋の富」とは、古典落語の一つであり、別名を「高津の富」や「千両富」として知られています。この落語は元々上方の「高津の富」として成立していましたが、のちに三代目柳家小さんが四代目桂文吾から学び、江戸の落語に取り入れられました。

あらすじ

物語は、神田馬喰町にある寂れた宿屋を舞台に展開します。疲れた様子の男がこの宿に一泊するところから始まります。宿の主人は、この客から宿賃を受け取ろうとしますが、男は自称金持ちの田舎者であり、奉公人が何百人もいると自慢しています。主人はこの言葉を信じ込み、男の言っていることには根拠のない誇張も含まれていることに気づきません。

この男は、荒唐無稽な話を持ち出し、例えば自宅の庭からは琵琶湖と富士山が見えるなどと語ります。そんな中、宿の主人は、不景気な時期に売れ残ってしまった一分の富クジを購入してほしいと頼みます。男は状況に押され、結局そのクジを買うことになります。さらに、「当たったら半分やる」と言って出かけるのですが、実は彼は文無しで、金の算段をするために江戸に来たばかりでした。

男はなけなしの一分で富クジを購入し、悪態をつきながら神社の境内でくじ引きを観察します。その結果、なんと一等の千両を当てるという幸運に見舞われます。この突然の出来事に男は身体が震え、慌てて宿に戻ります。しかし、その後体調が悪いと偽り、布団に引っ込みます。

何が起こったのかを知る宿の主人は、彼が千両を当てたことを理解し、すぐに男のもとへ駆けつけます。主人は、喜びを伝えようと、「千両当たりましたよ。下で宴の用意をしています」と告げます。この時、男は主人が下駄を履いたまま自室に入ってきたことに気づき、少し注意を促しますが、主人は特に気にせずに布団をめくります。実は、男も草履を履いたままであったのです。

このように「宿屋の富」は、愉快な登場人物たちのやり取りによって進む、笑いや驚きに満ちた物語です。時代背景や人々の性格を反映させながら、金銭にまつわる人間模様を描いており、落語独特の笑いと教訓が散りばめられています。落語ファンのみならず、初めて聴く人々にも楽しさを提供できる作品として評価されています。

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