寄付のお願い (ウィキペディア)

寄付のお願い（きふのおねがい）

寄付のお願いとは、フリー百科事典であるウィキペディアの各ページ上部に現れる、資金提供を呼びかけるバナーのことです。しばしば「寄付バナー」や「寄付広告」とも呼ばれます。これは、ウィキペディアを非営利で運営するウィキメディア財団が、活動に必要な資金を広く利用者から集めるために掲出しています。

このバナーは通常、ページの最上部に大きく表示されます。利用者はバナー右端にある閉じるボタンをクリックすることで、一時的に表示を消すことができます。また、ウィキペディアのアカウントを作成しログインした状態であれば、原則としてこのバナーは表示されません。

寄付を促すメッセージには、「コーヒー一杯分」といった手軽な金額での支援を呼びかけるものや、「あと〇〇円の寄付が集まれば、今年の資金調達活動は終了します」といった目標達成への貢献を訴える表現などがよく用いられます。これらのメッセージは、寄付への心理的なハードルを下げ、参加を促す工夫と言えるでしょう。

寄付バナーの運用は2010年に試験的に始まりました。それ以来、ウィキメディア財団は定期的に資金募集キャンペーンを実施しており、そのたびにバナーが表示されることから、インターネット利用者の間では一種の恒例行事のように認識されることもあります。

運用の背景と変化

ウィキメディア財団は、ウィキペディアの運営にかかる一切の費用を寄付によって賄っています。記事の執筆や編集は世界中のボランティアが行っていますが、サーバーの維持管理費、ソフトウェア開発費、人件費、法的な対応にかかる費用などは財団の資金から支出されます。その一方で、ウィキペディアのウェブサイトには一般的な広告が表示されません。これは、特定の企業や団体の影響を受けず、中立性、独立性、公平性を保つためだと説明されています。

資金調達の成功事例としては、2011年初頭には約50万件の寄付が50日間で集まり、総額1,600万ドルに達したことが報告されています。この時の寄付一件あたりの平均額は約22ドルでした。過去には、2009年に24万人から合計800万ドルが集まったこともあります。

寄付バナーの表示方法は時代とともに変化してきました。2010年の試験運用開始後、同じ年の末にはログインユーザーへのバナー非表示化が決定されました。これは、ログインユーザーはすでに寄付をしている可能性が高いと考えられたためです。また、表示期間や対象言語版についても調整が行われ、2011年末には全ての言語版で表示されたバナーが、翌2012年末には一部の言語版に限って短期間表示されるにとどまりました。2015年頃からは、バナーの文言やデザインについて、A/Bテスト（複数のパターンを比較して最も効果の高いものを選ぶ手法）の結果を重視して運用されるようになったと報じられています。

批判と日本語版の状況

寄付のお願いに対しては、利用者から様々な意見や批判が寄せられています。最も多いのは、バナーがウェブページの大部分を占め、記事の可読性を損なうという指摘です。特にスマートフォンなどの小さな画面では、バナーが画面の半分あるいは全面を覆ってしまうケースもあり、これが不満の原因となっています。

また、ウィキメディア財団の財政状態に関する情報が公開されるにつれて、批判の声も上がっています。例えば、2014年6月時点の純資産が7,700万ドルを超えていることから、「ウィキペディア存続の危機」といった切迫した表現が、実際の財政状況に比べて過剰に不安を煽るのではないか、という疑問が呈されました。財団関係者の中からも、財政状況とバナーの表現に乖離があるという趣旨の意見が表明されたことがあります。さらに、集まった多額の寄付金の使途についても、職員の高額な家具購入費や訴訟費用などが批判の対象となることもありました。

ウィキペディア日本語版においても、寄付のお願いはたびたび話題となります。2016年の調査では、日本の利用者がウィキペディアが寄付によって運営されていることをあまり認識していない実態が明らかになりました。これを受けて財団は、非営利運営であることや個人の寄付の重要性をより明確に伝えるメッセージを作成・表示するようになりました。特に2020年9月以降、日本語版で表示されるバナーが大型化し、「以前より寄付を強く求められている感じがする」という意味で「寄付圧が強い」といった声がインターネット上で多く見られるようになり、再び議論の対象となりました。

バナーへの不満から、一部では広告掲載を提案する意見もあります。日本国内では、「Google Adsenseのようなランダム広告なら問題ないのでは」といった提言も見られました。しかし、これには反論もあります。日本は世界的に見てもウィキペディアへのアクセスが多い国の一つですが、2014年のデータでは全体の寄付総額に占める日本の割合はわずか2%程度でした。また、財団の調査が示すように、寄付運営への理解がまだ十分浸透していない現状があります。広告掲載は、記事執筆・編集を担うボランティアが広告を嫌って離れてしまい、サイトの質が低下したり「崩壊」につながったりするリスクがあるという見方もあります。一方で、財団の資金調達チームにいた人物が、寄付のお願いバナー自体を「一切の広告を掲載いたしません、という広告」であり「ウィキペディアの恥」だと批判したこともあります。

風刺とパロディ

2011年に表示された寄付バナーのうち、ウィキペディア創設者であるジミー・ウェールズ氏の顔写真が掲載されたものは、特に注目を集めました。写真が記事タイトルのすぐ横に配置されたため、まるで写真が記事のキャプションのように見え、インターネット上で多くの人々の間で面白おかしく話題にされました。このバナーの人気（？）を受けて、ブラウザの拡張機能として、全てのウェブページにこの寄付バナーを表示させるものや、ジミー・ウェールズ氏の写真を猫の写真に置き換えるといったパロディツールまで登場しました。

寄付のお願いバナーは、ウィキペディアという巨大な知識リソースを維持するために不可欠な資金源であると同時に、その表示方法やメッセージ、財団の財政状況などを巡って、利用者や関係者から様々な議論や反応を引き起こしている存在と言えるでしょう。

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関連項目
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