密陽女子中学生集団性暴行事件

2004年、大韓民国慶尚南道密陽市で発生した、当時中学2年生の女子生徒らを複数の男子高校生が組織的に集団強姦した事件です。被害者たちは性的暴行に加え、金銭を奪われ、個人情報がインターネット上に晒されるなど、想像を絶する被害を受けました。にもかかわらず、加害者側には刑事罰を受けた者が一人もいなかったことから、この事件は韓国社会における女性の人権意識の低さや性犯罪への甘い司法対応を象徴するものとして、国内外で大きな波紋を呼びました。

事件の発生と経緯

事件の発端は2004年1月、蔚山広域市に住む一人の女子生徒が、誤って密陽市の男子高校生に携帯電話をかけたことでした。この男子生徒は巧みな言葉で女子生徒の好奇心を煽り、実際に会う約束を取り付けます。数日後、女子生徒は妹といとこを伴って密陽市へ赴き、件の男子高校生と会いました。しかし、男子高校生は彼女たちを密陽市内の高校生から成る不良グループ「密陽連合」のリーダーに引き合わせます。リーダーを含む約10人のグループは、3人の女子生徒を脅迫し、暴行を加え、簡易宿泊施設（ヨインスク）へ連れ込み、そこで初めての集団性暴行に及びました。

加害者たちは、この時の状況を弱みとして利用し、女子生徒たちに継続的な脅迫を加えます。「強姦された事実や個人情報をインターネットに公開する」と脅し、1カ月に数回、彼女たちを呼び出しました。モーテル、簡易宿泊施設、高校運動部のバス内、公園など、様々な場所で性具を用いた集団強姦が繰り返され、同時に金品も強奪されていました。

被害者の一人は性具の使用により体に異常をきたし、婦人科での治療を余儀なくされます。精神的な苦痛は極限に達し、8月には睡眠薬による自殺未遂を図り、一時は昏睡状態に陥りました。娘の変わり果てた姿に耐えかねた母親が、ついに警察へ通報し、事件が明るみに出ました。

捜査過程における人権侵害

通報を受けた蔚山南部警察署は捜査を開始し、2004年 12月7日までに密陽連合の男子高校生41人の身柄を拘束しました。主要容疑者17人に逮捕状が請求され、他24人は書類送検されるなど、多数の加害者が特定されます。しかし、捜査の過程で、被害者である女子生徒たちに対する警察の対応が極めて不適切であったことが判明します。

捜査が始まった当初から、被害者は警察署の裏庭で加害者家族に囲まれ、「このまま済むと思うな」などと脅迫を受ける状況に置かれましたが、警察は適切な保護を怠りました。さらに、被害者の「女性警官による担当」という要求を無視し、男性警官立ち会いのもと行われた加害者との対質調査では、加害者から暴言を浴びせられるという二次被害が発生しました。信じがたいことに、一部の警察官は被害者に対し「密陽の恥を晒した」などといった暴言まで吐いていたことが明らかになりました。

警察の対応は、加害者確認の際にも被害者に過酷な精神的負担を与えました。多数の男子高校生を一列に並べ、被害者と直接対面させて確認させたり、個別に引き合わせて「入れたか、入れなかったか」と被害者の目の前で問いただしたりしたのです。これは被害者を保護するどころか、加害者からの報復の恐怖と、羞恥心を増幅させる行為に他なりませんでした。

こうした警察官による人権侵害行為に対し、国家人権委員会は職権調査を開始し、女性部も真相究明を約束するなど、社会的な批判が高まります。蔚山南部警察署長は被害者に対する卑下発言などを認め謝罪し、事件担当の幹部らが問責処分となりました。しかし、警察官の一部が被害者の実名を挙げて誹謗する会話をしていたことも後に確認され、警察内部の意識の低さが露呈しました。

加害者の処分と被害者のその後

多数の加害者が特定されたにもかかわらず、彼らに下された処分は韓国社会に衝撃を与えました。蔚山地検は少年ら20人を処罰対象とし、うち10人を少年部に送致しましたが、これは事実上前科が付かないようにするための配慮と見なされました。起訴された10人も少年部に送致され、最終的に少年院に収容されたのはわずか5人でした。残る全員は刑事罰を受けることなく釈放されたのです。学校側の処分も、一部の生徒に3日間の校内奉仕活動が科せられたに過ぎず、加害者である生徒たちは誰一人として刑罰を受けず、前科も付かないまま社会に出ることとなりました。

一方、被害者の苦難は事件後も続きました。彼女にとって最も大きな心的外傷となったのは、事件そのものに加え、事件が明るみに出て加害者と直接対面させられたことでした。捜査過程での度重なる詳細な尋問は、被害者を犯罪者のように扱っていると感じさせ、さらには加害者の肩を持っているかのようにさえ映ったといいます。「他の子たちは暴行されなかったのに、どうしてあなただけ暴行されたと思うのか」「一度そういうことをされたら、二度と密陽は見向きもしたくなくなるはずなのに、なぜまた行ったのか」といった、被害者に責任を転嫁するかのような心ない質問も浴びせられました。

精神的に追い詰められた被害者は、ソウル特別市へ転居し、精神科病院に入院しました。医師は彼女が心的外傷後ストレス障害（PTSD）、うつ病、パニック障害、不安障害、摂食障害など、複数の精神疾患を抱えていると診断しました。彼女の願いは「これまでにあったことすべてを頭の中から消すこと」でした。

しかし、ソウルでも彼女は集団暴行事件の被害者であることを知られ、学校や社会から冷遇を受け、家出を繰り返すことになります。さらに、少年院に収容された加害者の母親が転校先の学校にまで現れ、減刑のための嘆願書を要求するなど、執拗なつきまといを受けました。

事件から数年後、MBCテレビの報道により、加害者たちが何事もなかったかのように通常の社会生活を送っている現状が伝えられ、韓国社会における性犯罪への甘すぎる対応が改めて浮き彫りになりました。被害者は、父親と加害者の両親の間で金銭による和解が進められ、合意せざるを得なかったことへの後悔や、「世の中に利用された」「保護してもらえなかった」という社会に対する強い怒りを抱え続けています。

この事件は、性暴力被害者に対する捜査機関や社会の対応がいかに冷酷で不適切であったか、そして加害者がほとんど責任を問われずに済む司法制度の不備を痛感させる事例として、長く韓国社会に暗い影を落としました。2024年には、一部の加害者の近況が暴露系YouTubeチャンネルを通じて公開され、再び社会的な関心を集め、批判が再燃しました。これにより、一部の加害者は職場を解雇されるなどの影響が出ています。

結局、この事件が示唆するのは、韓国において性犯罪を犯した者が責任を問われずに堂々と生きていける現実であり、「性犯罪者の天国」とまで揶揄される状況の一端を物語っています。

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