富の原遺跡

富の原遺跡

富の原遺跡は、長崎県大村市富の原2丁目に位置する、縄文時代と弥生時代の複合遺跡です。大村市の中心部にほど近く、多良岳の山麓から大村湾へと広がる大村扇状地の扇端部に位置しています。

概要

第二次世界大戦中に航空隊の飛行場が建設され、戦後には工場や住宅が増加したことで、遺跡の一部は破壊されました。しかし、1980年以降の発掘調査によって、弥生時代の竪穴建物跡、甕棺墓、石棺墓、祭祀遺構などが発見されました。土器や石器に加えて、国内でも珍しい鉄戈や鉄剣が出土したことは、この遺跡の特筆すべき点です。

特に、鉄戈の分析から得られた情報は非常に重要です。分析の結果、鉄戈の原料鉱石には磁鉄鉱が用いられ、鋼の炭素量は0.5%から0.6%と推定されました。刃の部分は真鍮を削れるほどの硬度を持ち、棟の部分は炭素含量が0.1%から0.2%の軟鋼であることが確認されています。つまり、刃に高炭素の硬鋼を使用し、棟に低炭素の軟鋼を組み合わせる「合わせ鍛え」の技法が、弥生時代にはすでに存在していたことが明らかになりました。この鍛造技術は、刃の鋭利さを保ちつつ、折れにくい刀剣を作るために必要なものであり、日本刀（平安時代）以前の日本独自の大型鉄戈から確認されたことは非常に意義深いと言えるでしょう。

2002年の調査では、濠の跡が発掘され、この遺跡が環濠集落であったことが確認されました。

アクセス

長崎県交通局（長崎県営バス）「富の原入口」バス停留所から徒歩15分です。

備考

低炭素の鋼と高炭素の鋼を組み合わせた刃物の技法に関する海外の事例も存在します。17世紀の中国の書物『天工開物』には、「百錬鋼でその外を包み、中は鋼とは違う鉄を芯とする。鋼を表にし、鉄を芯としなければ、強い力を加えるとすぐ折れてしまう」という記述があります。また、イランの遺跡からは、紀元前7世紀から6世紀頃の刀子が発見され、分析の結果、高炭素鋼と低炭素鋼で構成されており、「細かく砕いた白銑を低炭素鋼の帯の間にサンドイッチ状に重ねた素材を鍛錬することによって得られたもの」とされています。これらの事例から、作刀の技法自体は西方に起源を持つ可能性も指摘されています。

富の原遺跡は、弥生時代の高度な金属加工技術や集落の構造を知る上で、非常に重要な遺跡と言えるでしょう。

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