環濠集落

環濠集落とは



環濠集落とは、集落の周囲にを巡らせた構造を持つ集落のことです。水稲農耕の開始とともに大陸から伝わったと考えられており、集落の境界を明確にする役割を果たしていました。には、水を湛えた「環濠」と、水を張らない「環壕」の二種類があります。

環濠集落のルーツ



環濠集落の起源は、中国の長江中流域と南モンゴルに遡るとされています。長江中流域では、約8000年前の彭頭山遺跡で、直径約200メートルの環濠集落が発見されており、水田稲作が行われていたことがわかっています。一方、南モンゴルでは、約8200年から7400年前の興隆窪遺跡で、楕円形の環濠に囲まれた集落が見つかっており、アワなどの畑作が行われていました。

日本における環濠集落



日本では、弥生時代から中世にかけて環濠集落が各地に作られました。初期の研究は、福岡県の比恵遺跡群の発掘調査によって始まりました。この調査で、溝で囲まれた弥生時代の住居跡が発見され、環濠集落の研究が進むきっかけとなりました。

環濠集落の特徴


環濠集落は、防御機能と拠点としての機能を持っていました。V字型に深く掘られたや、その周辺に設けられた逆茂木は、外敵からの防御を意識したものです。また、集落の中には、首長の居宅や祭祀用の建物、金属器の生産施設などがあり、政治的・経済的な拠点としての役割も担っていました。弥生時代中期には、環濠集落は防御的な性格を強め、王権形成過程における軍事的な動向を反映していると考えられています。

縄文時代の環濠集落


縄文時代の集落は、一般的に環濠を形成しないとされています。しかし、北海道の静川16遺跡では、縄文時代中期末から後期初めにかけて、不正楕円形の環濠集落が発見されています。これは、弥生時代の環濠集落とは異なる性格を持つと考えられており、祭祀の空間であった可能性も指摘されています。

弥生時代の環濠集落


弥生時代の環濠集落は、水稲耕作とともに大陸から伝わり、日本各地に広がりました。しかし、2世紀後半から3世紀初頭にかけて、多くの環濠集落が消滅していきました。この変化は、当時の政治的な状況の変化を示唆するものと考えられています。弥生時代の環濠集落には、低地に作られたものと、高地に作られたものがあり、それぞれ水濠と空壕で囲まれていました。最も古い環濠集落は、福岡県の江辻遺跡で発見されており、弥生時代早期のものとされています。

中世の環濠集落


戦国時代には、農村で集落を守るために環濠を巡らせる動きが広まりました。特に有力な寺院を中心に形成された「寺内町」は、環濠集落の典型的な例です。現在でも、奈良県今井町のように環濠の一部が残る集落があります。

現存する環濠集落



現在でも、当時の姿を残す環濠集落がわずかに存在します。特に奈良県には、稗田環濠集落や若槻環濠集落など、歴史的に重要な史跡が多く残っています。これらの集落は観光地としても人気がありますが、全国には、整備されていない環濠集落も多数存在します。また、都市化によって環濠が埋め立てられ、道路や水路として利用されている例も多く見られます。

各地の環濠集落



以下に、各地の主な環濠集落を挙げます。

三重県:一身田寺内町
滋賀県:下石寺環濠集落、新海町
大阪府:久宝寺寺内町、恵光寺寺内町、平野郷環濠跡、喜連環濠集落玉出環濠集落
奈良県:稗田環濠集落、若槻環濠集落、番条環濠集落、高安環濠集落、南柳生環濠集落、竹之内環濠集落、萱生環濠集落、井戸環濠集落、辻環濠集落、中村環濠集落、市場環濠集落、西安堵環濠集落、保津環濠集落、秦楽寺環濠集落、南郷環濠集落、藤森環濠集落、今井環濠集落
* 佐賀県:直鳥環濠集落クリーク公園


これらの環濠集落は、古代から中世にかけての日本の歴史や文化を理解する上で、非常に重要な遺産です。

まとめ



環濠集落は、防御機能と拠点としての機能を兼ね備えた独特な集落形態です。弥生時代に多く見られましたが、中世にもその形態は受け継がれ、各地に様々な特徴を持つ集落が形成されました。現在でも、その一部が残っており、歴史的な景観を今に伝えています。

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