富久クロス

富久クロスの概要

富久クロスは、東京都新宿区富久町で実施された大規模な再開発プロジェクトです。このプロジェクトは、タワーマンションを中心に、約3,000人が暮らす新しい街を作り出すことを目的としていました。かつてはバブル崩壊後に荒廃が進んでいた地域が、見事に生まれ変わった事例として知られています。

再開発の背景

1980年代のバブル期に地価が高騰した新宿区西富久町は、バブル崩壊後、駐車場や空き地が目立つようになり、地域住民の高齢化と商店の衰退が深刻化していました。さらに、不審火や空き家への侵入など、防犯・防災面での問題も深刻化し、地域コミュニティは崩壊の危機に瀕していました。

このような状況を打開するため、1997年に地元住民が勉強会を始め、早稲田大学の研究員であった増田由子氏（現：まちづくり研究所代表）らの支援を受け、「高齢者が安心して暮らせる街づくり」の構想を練り上げました。

再開発の推進

地上げで不良債権化していた土地の多くは外資系企業に渡っていましたが、増田氏らの働きかけにより、都市基盤整備公団（現：都市再生機構）が土地の買い取りを開始し、再開発面積の約3分の1を取得することに成功しました。さらに、小泉純一郎政権が都市再生を掲げ、この地域を「緊急整備地域」に指定したことが、再開発を大きく後押ししました。

2001年には、住民が「市街地再開発事業」としての推進と、「高層マンションとペントハウスの複合型開発」を行うことを決定し、新宿区西富久地区市街地再開発準備組合を設立しました。2008年に都市計画が決定、翌年には再開発組合が設立され、2015年9月に全体の工事が完了し、引き渡しが行われました。

この再開発事業には約650億円の費用が投じられました。総合設計制度を活用するために公園の設置が必要でしたが、既存の富久さくら公園が整備されました。この公園の敷地は、かつて法務省の官舎があった国有地を新宿区が借り上げて公園として利用しており、民間の再開発に国有地が一体的に利用されるという特徴的な事例となりました。

富久クロスの構成

富久クロスは、約2.6ヘクタールの開発区域内に、以下の施設で構成されています。

富久クロス コンフォートタワー: 高さ約190メートル、55階建ての超高層分譲住宅。総戸数1,084戸で、制振構造を採用しています。デザインの特徴として、縦に伸びる柱をリブ形状にし、頂部に印象的なフレームを設けて、ランドマークとしての存在感を際立たせています。
富久クロス グリーンレジデンス: ワンルーム中心の7階建て賃貸住宅。総戸数138戸で、従前からアパート経営をしていた権利者の収入を維持する目的で建設されました。
ペントテラス: 平屋や2階建ての計22棟のペントハウス。かつて戸建て住宅に住んでいた権利者が、以前の生活形態を維持できるように、専用庭付きの戸建て風住宅を人工地盤の上に再現しました。緩やかな坂道によって道路から直接アクセスできるよう設計されており、接地性を高めています。
施設: 低層部には、スーパーマーケットのヨークフーズ新宿富久店や認定こども園が設けられ、道路に面して店舗やクリニックなどの生活支援施設が配置されています。

沿革

1990年: 地元住民が地上げ問題に関する勉強会を開始。
1997年: 街づくり組合を設立。
2001年: 新宿区西富久地区市街地再開発準備組合を設立。
2008年: 都市計画決定。
2009年: 西富久地区市街地再開発組合設立認可。
2012年5月: 着工。
2015年9月: 竣工、引き渡し。
2018年9月: 再開発組合解散。

近隣施設

東京医科大学
東京都立総合芸術高等学校

まとめ

富久クロスは、地域住民、行政、民間企業が協力し、長年にわたり放置されていた荒廃地域を再生した成功事例です。高層マンションだけでなく、賃貸住宅や戸建て風住宅、商業施設を複合的に整備することで、多様なニーズに応える新しい街づくりを実現しました。また、公園や生活支援施設の整備も行うことで、住民の利便性と快適性を向上させました。このプロジェクトは、都市再開発のモデルケースとして、多くの注目を集めています。

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