富士自動車・フジキャビン

フジキャビン (FujiCabin)

フジキャビンは、1955年に日本の富士自動車（現在の小松製作所）によって発表された超小型車で、1966年に少量生産されました。この車両は、前2輪・後1輪の独特な構造を持ち、一般的にキャビンスクーターやバブルカーとも呼ばれています。日本の軽自動車の黎明期を象徴するモデルとして位置付けられ、特に繊維強化プラスチック（FRP）を用いた設計が革新的でしたが、商業的には失敗に終わり、わずか85台が製造されたのみです。

概要

現在の小松製作所である富士自動車は、当初は在日米軍向けの軍用車両の修理や、オートバイエンジンの製造を行っていた企業です。富士自動車の社長であった山本惣治は、自動車生産への強い興味を抱いており、その意欲がフジキャビンの開発につながりました。

フジキャビンのデザインを担当したのは、名だたるデザインエンジニアである富谷龍一です。彼は、以前に住江製作所で開発された軽自動車「フライングフェザー」のデザインを手掛けた実績があり、商業的成功を収められなかったフライングフェザーの失敗を経て、再び小型車の開発に取り組んでいました。

構造とデザイン

フジキャビンの原型は、「メトロ125」という名前で1955年に発表されました。この車両は、当時の日本では珍しいヨーロッパスタイルの後1輪式のキャビンスクーターであり、軽自動車の新たな形態を追求した先駆的な製品でした。特に流線形ボディとユーモラスな外観が印象的で、ボンネット前端には一つのヘッドランプ、ウエストライン下には大きな開口部が設けられています。

最も注目すべきなのは、全体がFRPで構成されるモノコック構造の採用で、これは当時の自動車業界では画期的な試みでした。この構造により軽量化と強度の両立を実現しており、140kgという軽さを誇りました。さらに、内装は並列2座で右ハンドルの設計となっており、助手席は運転席よりも後退させてスペースを確保する工夫が施されています。

エンジンと運転性

搭載されているエンジンは、富士自動車がオートバイ向けに生産していた「ガスデン」SA-1型空冷2ストローク単気筒の121ccで、車室の床下に配置されています。走行性能はカタログ上では最高速度60 km/hを誇っていますが、独特のトランスミッションと運転しづらいレイアウトが影響し、運転の快適性はあまり良好ではありませんでした。雨天時の運転も難しく、屋根があっても湿気対策が不十分だったため、多くのドライバーにとって不満が残る結果となりました。

商業的失敗

フジキャビンは1956年に生産を開始し、価格は23万5,000円とリーズナブルでしたが、実際の運転性能や快適性には大きな欠点がありました。特に、FRPの技術的未熟さによる製造時の品質問題や、快適性に欠ける設計が影響し、生産はわずか85台で終了しました。

その後、富士自動車は1961年まで自動車製造から撤退せざるを得なくなり、フジキャビンの開発はその後の小型車開発の教訓として語り継がれています。残存するフジキャビンは、トヨタ博物館や日本自動車博物館に保管されており、少数の愛好家によって復元され、歴史的な価値が再評価されています。

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