富士製紙

富士製紙株式会社：日本の製紙業を牽引した Pioneer

富士製紙は、日本の製紙業界において、その黎明期から大きな足跡を残した会社です。1887年（明治20年）に設立され、1933年（昭和8年）に初代王子製紙に合併されるまでの間、国内市場で激しい競争を繰り広げました。

設立と初期の発展

富士製紙は、王子製紙の設立から14年遅れて誕生しました。1889年（明治22年）には最初の工場を静岡県富士郡に建設し、操業を開始。当時としては画期的な亜硫酸法と砕木法による木材パルプ製造、そして安価な水力発電を活用することで、コストを大幅に削減し、先行していた王子製紙に挑戦状を叩きつけました。

1897年（明治30年）には、同じ富士郡内に第二、第三工場を建設し、生産能力を拡大。その結果、翌1898年（明治31年）には、王子製紙のストライキによる生産減少も手伝って、洋紙生産量で日本一の製紙会社に躍り出ました。

北海道への進出とさらなる拡大

20世紀に入ると、富士製紙は王子製紙と同様に、豊富な森林資源を求めて北海道に進出します。1906年（明治39年）には、釧路の北海紙料（旧・前田製紙）を買収し、第四工場としました。さらに、1908年（明治41年）には、製紙工場として江別に第五工場を建設。空知郡にはパルプ工場の第六工場を追加しました。また、同時期には大阪の日本製紙（旧・阿部製紙所）を合併し第七工場とし、富士郡で第八工場を新設するなど、全国各地で積極的な事業展開を行いました。

しかし、これらの急拡大は、富士製紙の資金繰りを悪化させる要因となりました。事業拡大のペースが鈍化したため、1912年には国内首位の座を王子製紙に明け渡すことになります。

再び拡大路線へ、そして合併

第一次世界大戦による好況を背景に、富士製紙は再び拡大路線へと転換します。1915年（大正4年）以降、製紙会社の買収・合併や新工場建設を積極的に進め、1922年（大正11年）には樺太の日本化学紙料を合併し、海外にも進出しました。

この間、1919年（大正8年）には、樺太工業を始めとする製紙会社群を率いていた大川平三郎が富士製紙の社長に就任。大川は株式の買い付けも進め、この頃にはすでに大株主となっていました。

しかし、1929年（昭和4年）に大株主の一人であった甲州財閥の穴水要七が死去すると、王子製紙が遺族から富士製紙の株式を買収し、筆頭株主となります。これにより、経営の実権は王子製紙が握ることになりました。

昭和恐慌の時代、市況の悪化に加え、大川の樺太工業の経営が悪化し、富士製紙との共倒れが懸念されるようになります。その結果、王子製紙・富士製紙・樺太工業の3社の合併が検討され、1933年（昭和8年）5月、富士製紙と樺太工業は王子製紙に吸収合併される形で消滅しました。この合併により、国内市場の8割を握る巨大製紙会社「大王子製紙」が誕生しました。

合併後の工場と現在

合併時、富士製紙は14の工場を保有していましたが、太平洋戦争中に多くの工場が休止、または閉鎖されました。しかし、一部の工場は戦後再開され、現在も王子マテリアや日本製紙の工場として操業を続けています。これらの工場は、日本の製紙業の歴史を今に伝える貴重な存在と言えるでしょう。

富士製紙の歴史は、日本の製紙業の発展と競争の歴史そのものです。その名は消えても、その足跡は日本の産業史に深く刻まれています。

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