富田長繁

富田長繁：越前の狂犬と謳われた戦国武将の生涯

富田長繁（とだ ながしげ/とんだ ながしげ）は、戦国時代から安土桃山時代にかけて活躍した武将です。通説では朝倉義景の家臣とされていますが、その出自や経歴には謎が多く、近年でも新たな史料からの検証が続けられています。

不明な出自と越前での生活

長繁の出自については、出雲国出身説も存在しますが、確証は得られていません。しかしながら、彼の父であると推測される富田吉順は、天文20年（1550年）に越前国南条郡に所領を持っていたことが確認されており、長繁の曽祖父の代から少なくとも越前国に居住し、土地を所有していた一族であると考えられます。氏名については「長秀」とも表記される場合がありますが、書状などでは「長繁」と記されていることから、こちらが正式な名と推測できます。

織田信長への寝返りと越前支配

元亀元年（1570年）、朝倉氏に属していた長繁は、織田信長の越前侵攻に際し、1000騎を率いて出陣しました。しかし、元亀3年（1572年）には、前波吉継らと共に織田信長に寝返ります。この決断は、朝倉氏の衰退を見越した戦略的な判断であったと推測されます。その後、浅井井規の攻撃を撃退するなど、織田軍の一員として活躍し、朝倉氏滅亡後には越前府中領主に任じられました。

天正元年（1573年）の第二次長島攻めにも従軍し戦功を挙げましたが、同時期に越前守護代となった桂田長俊（前波吉継改名）との関係が悪化します。桂田は信長に対して長繁の知行の過剰さを訴え、二人の仲は険悪さを増していきました。やがて長繁は桂田の暗殺を企てるようになります。

天正2年（1574年）1月、長繁は桂田の圧政に苦しむ民衆を扇動し、大規模な一揆を引き起こしました。一揆軍を率いた長繁は、桂田長俊を殺害し、その家族をも皆殺しにします。さらに、旧朝倉家臣であった木下祐久、津田元嘉、三沢秀次らを追放、魚住景固とその一族をも滅ぼしました。しかし、特に魚住景固の殺害は民衆の反発を招き、他の旧朝倉家臣との連携も失う結果となります。

一揆との抗争と最期

織田家の支配力が及ばなくなった越前を一時的に支配下に収めた長繁は、国中屋銭賦課の禁止や土民直訴の容認など、民衆への配慮を示す政策を打ち出しました。しかし、「弟を信長に人質に出して越前守護の地位を得ようとしている」という噂が流れ、一揆勢は長繁に見切りをつけます。一揆勢は一向宗の七里頼周を新たな指導者として迎え入れ、長繁を討つべく蜂起しました。

圧倒的不利な状況下で、長繁は決死の突撃を行い、一時は一揆勢を打ち破る活躍を見せます。しかし、彼の武勇をもってしても、数的に劣る状況を覆すことは困難でした。2月18日、味方の裏切りにあい、鉄砲で射殺されてしまいます。享年24歳。その首は一揆軍に晒され、壮絶な最期を遂げました。

人物像と評価

富田長繁は稀代の武勇を誇った武将でしたが、その一方で、人心を掌握する政治手腕には欠けていたと評されています。「越前の狂犬」という異名をとるほど、攻撃的な性格であったと伝えられています。桂田や魚住の殺害は、織田信長の支配が及ばない隙を突いた大胆な戦略でしたが、結果的には民衆の反発を招き、彼の最期を早める結果となりました。彼の生涯は、武勇と短慮さ、そして時代の波に翻弄された悲劇的な物語として、今も語り継がれています。現在でも、福井県鯖江市の歯塚大権現には、長繁の子孫が建てた供養塔が残されています。

富田長繁を題材にした作品

くるい咲き 越前狂乱（大塚卓嗣、光文社、2018年）
高くとんだ（『戦国武将伝 東日本編』収録、今村翔吾、PHP研究所、2023年）

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