寒川 (西都市)

宮崎県西都市の山間部に位置する寒川（さむかわ、さぶかわ）は、かつて人々の生活が営まれていた集落でしたが、1989年3月に最後の住民が離村し、その歴史に幕を閉じました。2007年には、この寒川を舞台としたドキュメンタリー映画「寒川」が製作され、限界集落の現実を浮き彫りにしました。

地理

寒川は、西都市役所から西へ約23キロメートル、標高約350メートルの場所に位置し、三財川の北岸、山の中腹に開けた集落でした。集落の規模は東西、南北ともに約500メートル。麓からは県道319号線が唯一のアクセスルートでした。明治11年（1878年）には42世帯215人、昭和40年（1965年）には50世帯211人が暮らしていましたが、過疎化が進み、廃村直前の1989年2月にはわずか6世帯13人にまで減少、平均年齢も70歳を超えるという限界集落の状態でした。

集落としては廃村となりましたが、西都市の大字としては現在もその名が残っています。平成22年（2010年）の国勢調査までは、大字寒川に1世帯2人の居住が記録されていましたが、平成27年（2015年）以降は0世帯0人と記録されています。

産業

寒川の基幹産業は林業でした。しかし、時代の流れとともに林業は衰退し、晩年はシイタケ栽培が中心となりましたが、年金や親族からの仕送りに頼らざるを得ない状況でした。

歴史

寒川天神社は慶長2年（1597年）の創建と伝えられており、遅くともこの頃には集落が形成されていたと考えられます。江戸時代には、寒川村は肥後国球磨郡の「米良荘」に属する寒川谷村（さぶかわだに）でした。1889年の町村制施行により、児湯郡三財村の一部となり、米良荘の他の村が西米良村・東米良村を構成する中で、唯一の例外となりました。三財村は1962年4月1日に東米良村とともに西都市へ編入されました。

宮崎県初の集団離村

1960年代以降、林業・農業の衰退は深刻化し、1978年には寒川小・中学校が閉校となりました。自家用車を持つ世帯も少なく、買い物や通院にも不便を強いられる状況でした。さらに、水源までの距離、集落と県道を結ぶ道路の管理も困難となり、集落の維持は極めて難しくなりました。

1986年11月24日、寒川集落の住民5人が市に対し集団移転の陳情書を提出。市は寒川の麓にあたる福王寺地区を移転先と決定し、市営住宅を建設しました。1989年3月、最後の住民6世帯13人が集団離村し、寒川の400年に及ぶ歴史は幕を閉じました。市は移転の条件として、「かまどの破壊、畳を上げること」、つまり、二度と居住できない状態にすることを住民に求めたと言われています。

2023年現在、往時の家屋は朽ち果て、数軒を残すのみとなっています。寒川小・中学校校舎も2022年以降に玄関付近の一部を残し半倒壊の状態となりました。また、2022年12月には集団移転者13人の最後の生存者が95歳で亡くなりました。

ゆかりのある人物

* 米良美一: 西都市出身のカウンターテナー歌手。母親が寒川出身で、幼少期に寒川神楽を鑑賞した経験があります。

寒川は、時代の波に翻弄されながらも、確かにそこに人々の生活があったことを物語る場所です。忘れ去られつつある集落の記憶を、私たちはどのように受け継いでいくべきなのでしょうか。

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